前回、「今厄介者のニセアカシア、具体的にどう除去していくのか次回に報告したい」と締めくくった。
海岸林をクロマツ林として形成するためには、繁殖力の旺盛なニセアカシアを除去できるか否かは
大きな問題である。
ニセアカシアの繁殖方法は3種類あると書いた。
種子繁殖、切り株からの萌芽繁殖、そして根からの萌芽繁殖である。今年は生物多様性観察ゾーンに
はびこっているニセアカシアに、甘酸っぱい香りを放って開花が見られてきた。
ニセアカシアの実生は開花開始が約6年という報告がある。盛土をしていないこの場所に繁殖している
確かに年数的にも合う。花が咲くと種子を生産するので、種子繁殖にも拍車をかけることになる。
植栽地のニセアカシアの繁殖は、切り株萌芽と地下茎・水平根からの根萌芽が主であると考えている。
ニセアカシアの繁茂地では、盛土した法面にまで這い上がり、法面からさらにクロマツ植栽面にまで侵入してくる
ほどの勢いにある(我々の植栽地ではない)。ニセアカシアの地下部は、大体20cm前後に地下茎・水平根が生存し、
根萌芽で個体が再生することから、地上部の刈りこみだけでは絶やすことは難しい。
左上の写真は7月にニセアカシアを下刈り・伐採しただけの区であるが、
右上のように切り株から萌芽枝が出てきている。
我々のプロジェクトでは、なんとかニセアカシアの侵入を抑えようと下刈だけでなく薬剤による除去の試験を
開始した。これは松島森林総合の佐々木勝義さんが昨年の下刈時に除草剤試験を開始し、10月に調査、続いて
この5月30日にその最終効果調査を行うというので立ち会あった。
萌芽根を絶滅するには根の枯死まで至らせる除草剤でなければならない。しかも土壌汚染を引き起こさない
薬剤ということになる。今現在農薬法で認められた有用な薬剤は、グリホサート剤である。
グリホサート剤とは浸透移行性の除草剤。すなわち薬用成分が植物体内をとおって地下部まで薬剤が
到達し、地下茎に移行した後に効果が表れる薬剤である。土壌に触れると不活性化されるため
環境へのリスクが少ないのが特徴。
その代表がラウンドアップ(成分:グリホサートイソプロピルアミン塩)、ハヤワザ(成分:グリホサートイソプロピルアミン塩34%+MCAイソプロピルアミン塩6.5%)、そしてグリホエース(グリホサートイソプロピルアミン塩41%)の三種類。
秋の調査の時点で、新しいニセアカシアの萌芽が見られた区もありそれが処理した株とつながっている
か否か、その点が気になっていた。今回の調査の結果、これらの薬剤を切り株に塗布した個体は、地下茎・
水平根まで完全に枯死しており、グリホサート剤の威力を見せつけられた(一部グリホエースに成果あり)。
しかし切り口処理時点には見られなかったが、処理区内で秋に萌芽が一部に見られており、それが処理と関係が
あるのかを調べるため何本か根を掘って追跡した。結果は処理木の根とは関係がみられず、異なる地下茎からの
萌芽であった。すなわち処理した7月中旬の処理時期には見られなかったが、10月の調査の時点で新たに萌芽が
みられたものがほとんどであった。地下茎は10~20㎝程度の深さで走っているが、萌芽がみられるのは
10㎝以上の浅い深さ。恐らく夏以降に急激に細根が浅い所で養分を吸い上げ蓄えて肥大し、萌芽芽を形成して
秋口以降、場合によっては翌春に萌芽するに至ると考えられることが出来る。
グリホサート剤の薬効は明らかになった。ここでは触れなかったが、各除草剤の処理方法についても
明らかにしている。今回は小さな試験区での処理であったので、周りから侵入していてきた根が伸びて
根萌芽をしているので、事業的にはかなり広範囲の処理が必要である。
ニセアカシアの除伐作業に参加した際には、是非その繁殖を観察しながら作業していただきたい。
海岸林に対する愛着が増し加わるでしょうから。
5月30日にニセアカシアの根を調べるためにプロジェクトサイトへ行って調査してきた。
海岸林の空き地にはニセアカシアが増えており、国の方で私たちの植栽地のところどころに
生物多様性観察ゾーンを設けているが、そこがニセアカシアの繁殖源になっているのも気になる。
ニセアカシアの枯殺については次回に報告するが、今回はニセアカシアについて基礎編をお伝えする。
「アカシアの雨にうたれて・・・・・♪♪」我々の年代の方々は良く覚えているでしょう。1960年代に大ヒットした西田佐知子によって歌われ、あの独特の歌う雰囲気が好きでファンであった方も多いはず。
一般にアカシアと言っているのは正確には「ニセアカシア(和名ハリエンジュ)」。
外来種で1873年(明治6年)にウイーン万国博覧会に出席した田中芳男に随行した津田仙が、この木の並木を見て種子を持ち帰ったという。津田仙は、有名な日本人初の女子留学生・津田梅子(津田塾大学の創設者)の父、最初は公園緑化樹として、その後荒廃地緑化に使われ始めた。また海岸防災林にも広く植えられ、どこにでもみられるほど繁殖旺盛な樹木である。
ニセアカシアは治山砂防緑化樹としてヤシャブシ、ハンノキ、アカマツなどと並んで用いられ、そのうちでも
萌芽力の強いニセアカシアが分布拡大し、単純なニセアカシア林と変わっていった。寿命は短く20~30年で
樹幹の傾斜、根返りを起こしその繰り返しの林分が多くみられます。
ニセアカシアはミツバチにとっての有用蜜弦植物としても有用とも言われています。
時期にはニセアカシアの花の匂いを感じる方も多いと思われる。ちなみにニセアカシアの花のてんぷらは
珍味である。ニセアカシアの材は金を払って置いていく木材と厄介者にされてきた。先日のニセアカシアの
調査に同行した方の話によると、炭に焼いて重宝して使ってきたそうだ。最近ではマキストーブの貴重な燃料
として、さらにフローリング材として開発販売しているとも聞いている。
ニセアカシアの生態について、繁殖方法は、
①種子から
②人為的伐採や自然攪乱による幹の損傷から萌芽
③地中に伸びる水平根から発生する根萌芽 の3通りの方法により拡大している。
意外にも河川、渓流域では根による萌芽拡大ではなく、種子による拡大が多い。
種子は埋土種子であれば20年以上経っても発芽するという。クロマツ林ではマツの樹冠の欠けた空間地に
ニセアカシアははびこっている。根でなのか種子でなのか興味が尽きない。
秋田県の夕日の松原での興味深い研究報告があるのでここで紹介したい。群落は100平方mに30本にも
萌芽が発生するといわれ、群落のサイズも数百平方mから11haにもおよび、それが作業道に沿って広がった
という。萌芽であれば根を掘って水平根を追っかければ同じクローンかわかるが、実際に根を掘って調べるのは
至難の業である。秋田県立大ではDNA解析技術を使ってクローン追跡している(浦野2006)。
それを図に示す。この結果、この群落は6クローンから形成されているのがわかる。
また10m以上離れていても同じクローンである個体が存在することである。
当初は土壌攪乱によりニセアカシアの種子の発芽が促進されて群落形成しはじめ、
水平根の発達によりクローン形成したことが読み取れる。
ニセアカシアは潮風害を受けやすく、20年もすると垂下根が故損しはじめ倒伏しやすくなる。
決して海岸林に適した機能の樹種ではない。窒素固定する木なので土壌化・豊栄養化に役立つ。
しかし、菌根菌と共生するクロマツにとっては不要である。海岸林の将来をどう考えるかと
ニセアカシアの存在も関わっているように思われ、海岸林のゴールをどのように思い描くのか、
その点は行政ともコンセンサスを得えておくことが大切で、それによって保育作業も変わってくる。
我々にとっては、今は厄介者のニセアカシア、具体的にどう除去していくのか次回に報告したい。