玄人と素人
小林です。
宮城県名取市の海岸林再生の現場では、4月18日からクロマツの苗木の植え付けが始まっています。
作業をしているのは日ごろから林業に携わるプロの人々。
前後左右、ほぼ1メートル40センチの間隔を取りながら次々苗木を植えていくと、
1ヘクタールあたりざっと5000本になります。
その仕事ぶりを見ながら、玄人と素人の違いについて考えました。
現場で作業を統括する佐々木廣一さんが、植え付け初日の作業前に注意をしました。
浅野さんのブログに詳しく書かれていますが、ポイントがいくつかありました。
・慣れると植え方が自己流になってしまいがちだが基本に忠実に行うこと
・そのなかで平均一人一日あたり200~300本の作業をこなすこと
・道具の管理やケガなどの事故に十分気を配ること
そんなことでした。注意は素人の私が聞いていても分かりやすく、しかも細かいものでした。
言うまでもなく、この現場は苗を植えておしまいではありません。
植えた苗が海岸という厳しい環境に適応して元気に育ち、松林になるのを目指しているわけです。
佐々木さんは「素人と玄人の違いは、苗木を受け取ってから植えるまでの管理の仕方に出る」と
強調していましたが、それもこれも、どれだけ立派な松に育つのかということに思いを馳せてのことでしょう。
平行のつもりで引いた線に少しの誤差があると先に行けば行くほど誤差が広がっていく。
同じように、苗の管理、植え方にほんのちょっとの不手際があると、松林が成長していくにしたがって
その不手際の影響が拡大し、取り返しがつかなくなるかもしれない。
そんな意識が感じられました。
一方で、プロには効率が求められます。
当然のことです。
5月21日に市民の方々が参加して行う植樹祭では500人で1万本、一人あたりでは20本植える計画ですから、今進んでいる植栽の効率はその10倍以上です。
もちろん、植え方だって素人とは違う。
「うまくてはやい」のです。
植え付けの現場で見ていると、プロの人々の間にも差があることが分かります。
植える場所を決める→穴を掘る→苗を置く→土を戻す→踏み固める。
こうした一連の作業を、早い人は1分足らずでこなします。
リズムがあって無駄な動きがない。リラックスしている。
一方、時間がかかる人には無駄な動作があったり余分な力が入っているように見受けられました。
そういう人たちの作業も、植え付けの期間中には改善していきます。
しかし、慣れは基本を忘れさせることでもある。油断は労災にもつながりかねない。
そうした危険をあらかじめとりのぞいていくのも、またプロの仕事、ということでしょう。
植樹というと素人が手軽に参加できる緑化・環境保護活動のように思われがちです。
しかし、いまの植栽の現場はプロの仕事場です。素人の出番はありません。
その意味では、防潮堤をつくるような土木工事に近いように思えます。
しかし、この海岸林再生プロジェクトには違う側面があります。
地元の人々が会をつくり、時間をかけて自らの手で白砂青松を取り戻す試みでもある、という側面です。
地元の人をどう支えるのか、あるいは地元の人々がどうやってより深くかかわっていくのか。
それを考えなければならないのは、いまマツの苗を植えている人々ではありません。
素人には玄人のような技術はないけれど、効率も悪いけれど、
手伝える作業もあればその作業に喜びを感じることもあります。
木が成長していくのは眺めるだけでも楽しいものです。
海岸林の現場には、壮観といってもいい光景が広がっています。
この光景は、植えられたマツの数やその成長にしたがって年々姿を少しずつ変えていくでしょう。
素人の一人として何ができるかを考えたい。
まだ1メートルにも満たない、風にあおられてフラフラしているクロマツの苗が見渡す限り広がる景色を見ながら、いつもそんなことを思っています。