植栽地のクロマツの二酸化炭素吸収能力は高いの?
緑化技術参事の清藤城宏です。
今回出張した目的の一つに、プロジェクトの植栽が二酸化炭素の固定、また毎年の二酸化炭素の吸収にどの程度貢献しているのか、それを明らかにするための補足調査もありました。温暖化への影響が最も大きいとされる二酸化炭素の大気中の濃度を増加させないことが重要と言われ、そのため地球の二酸化炭素循環の中では森林が吸収源として大きな役割を果たしているといわれています。このことからしばしば「ここは二酸化炭素を
どのくらい吸収しているのですか?」とボランティアさんから疑問を投げかけられることがありました。
今日はそのお話です。
なぜ樹木は二酸化炭素の吸収源なのか、簡単に説明しましょう。
小中学校で習った植物の光合成を思い出してください。樹木は、光合成により大気中の二酸化炭素を吸収するとともに、酸素を発生させながら炭素を蓄え成長します。どこに炭素があるかといえば木質部分、おもに幹がそれです。それを絶乾状態にしその半分の重さが炭素なのです。
CO2のCは原子量12、Oは16ですから、炭素重量に44/12をかけると、二酸化炭素の固定量が算出されます。
もう少し丁寧に説明すれば、樹木は幹だけでなく、枝・葉・根の部分も炭素を蓄えています。そこで、幹材積に拡大係数をかけて枝・葉の量も加え、地上部全体の量を把握します。さらに、根の部分の炭素も加えるため(1+地下部比)をかけます。このようにして、樹木の幹のみならず枝・葉・根も含めた樹木全体の体積が把握されます。次に、炭素の量は重量で把握するため、体積から重量に変換するための容積密度をかけます。最後に樹木の重量あたりどれぐらいの炭素を含んでいるのかを出すため、炭素含有率(ほぼ0.5)をかけます。得られた炭素量に44/12をかけると二酸化炭素量になります。
一般的な傾向を申しますと、樹木の成長に伴って吸収量は上がっていきます。スギやヒノキでは大体20年生時で樹高の伸びはピークに達し、すなわち二酸化酸素の吸収量はピークとなり、その後緩慢横ばい、そして減少へと向かいます。プロジェクトでは、毎年固定プロットの樹高と根元径を測っていますので、そこから二酸化炭素固定量を算出いたしました。また1本1本の体積を求めて前年度からの増加分を求めて年間二酸化炭素の吸収量を算出するのです。通常、立木の材積(体積)は、樹高と胸高直径から算出する式から求めますが、ここでは胸高直径が測れる植栽木は少なく根元径を測っていますので、円錐形の体積を算出して幹材積に当てていますことをお断りいたします。
今回は2019年度測定のデータから求めた値を示します。2019年次で68.64ha、各年度ごとの調査プロットから得られた平均ha当たりの材積に係数を掛けて固定量を算出し、それに面積を掛けています。また2018から2019年の成長差に係数を掛け年間吸収量を算出し、それに植栽面積を掛けて計算しています。細かな点は年度報告書に掲載しますので、ここでは大まかな結論だけを述べます。
2019年度現在の二酸化炭素の固定量は約300トン/68.64ヘクタール、年間吸収量は214トン/68.64ヘクタールとなりました。
これを人間一人当たりの年間排出量、車の排出量と比較すると、2019年現在、人940人分・車130台分の二酸化炭素排出量を植栽により吸収したことになります。年間の吸収量では、人670人分・車93台分の排出した二酸化炭素を吸収していることがわかりました。
今回一番吸収量の高いところでは年間16.9t/haも吸収しています。スギ・ヒノキの年吸収のピークの20年生くらいでは12t/haですからかなり高い吸収量の能力を持っていることがわかりました。予測では15年生次には800~900トンの年間吸収量と推測できました。
これまでのプロジェクトボランティアの方々の平均がざっと1,500人/年ですから、ボランティアさんが一年間に排出する二酸化炭素量の2倍以上の吸収に貢献することがわかりました。
今年の成長は著しいです。もっともっと二酸化炭素の吸収量は上がるでしょう。この秋の結果が楽しみです。