2023年9月12日

お年寄りに「持ち場」ができ笑顔が増えた(N連 インドネシア チプタグラール)

  • インドネシア
  • 本部スタッフ
  • 海外事業部の森田です。

    出張でいろいろな国に行きますが、特に出張回数が多いインドネシアでは、田舎に行けば行くほど男性の喫煙率が高いと感じます(個人の感想ですが)。

    今回のN連(日本NGO連携無償資金協力)事業の舞台だったチプタグラールも例外ではなく、村を歩いていると道端や軒先などでタバコをくゆらせている男性を多く見かけました。男性が何人か集まると、タバコを吸いながら話をしている風景も多く見かけました。そのためか、喫煙している人の家の中は完全に燻されています。もちろん、家の中で煮炊きしている影響もあるとは思いますが。

    タバコを吸う男性たち
    男性が何人か集まるとタバコタイム

    前回のブログで、家計を維持するために出稼ぎに出ざるを得なかった男性が、プロジェクトを実施して野菜栽培やヤギ飼育などの技術を得たおかげで、その必要がなくなったという話をしました。

    それでも、出稼ぎに出ることができる働き盛りの男性は現金収入を得る術がありますが、お年寄りは遠方に出稼ぎに出ることも、きつい作業をするも難しい状況です。そのため、お年寄りは、村の外への販売が慣習で禁止されているためお金にならない稲作だけに従事しながらも、定期的な村への拠出金は納めなければならないという状況で、収入はないのに支出はあるという状態で生活は苦しかっただろうと想像します。

    プロジェクトを実施し、栽培技術を習得したことで、村人が積極的にトウガラシやキャベツなどの野菜の栽培やヤギの飼育、アグロフォレストリー(森を育みながら、樹間に農作物を植えて農業と林業を同時にすること)に取り組むようになりました。畑や森は村の中や村に近い場所にありますので、お年寄りも頻繁に足を運び、作物の管理や収穫をすることができます。

    野菜栽培といっても軽作業ばかりではありません。時には、お年寄りひとりでは手に負えない、堆肥の投入や資材組みなどの作業もあり、このような時には、インドネシアに昔から根付いているゴトンヨロン(相互扶助)の気持ちで、近所で助け合って進めます。お年寄りにも「持ち場」ができ、日がな一日何もすることがなく過ぎていっているお年寄りが減ったような気がしています。

    畑仕事をするお年寄り
    トウガラシ畑で収穫作業をする村のお年寄り
    苗の管理をするお年寄り
    アグロフォレストリーでコーヒーの苗の管理をするお年寄り

    事業地のチプタグラールでは、代々、家業を受け継ぐのが習わしです。

    農機具の修理を代々受け継ぐ家、この家は無線関係、こちらは調理器具の製作など各家族で代々受け継いでいる生業というのがあり、基本的にはそれを先代から継いでいくというシステムです。ただ、インターネット関係などの新しい職種は、その都度、その分野に明るい者や新しい世代に割り振られていくこともあるようです。私が訪ねた時にも、収穫祭に合わせて来訪する観光客に、Wifiが利用できるチケットを発行するのだと、徹夜で作業をしているグループがありました。このような新しい職種も生業の一つとして代々受け継がれていくのだそうです。

    このように家業を継ぐ習わしがあり、現金収入を得る術が限られているチプタグラールにおいて、個人の判断で収穫した農作物を販売でき、現金収入を得ることができるようになったことは、とても大きなインパクトです。

    生計向上に大きな影響を与えているだけでなく、自分の体力の範囲でできる作業がなかったことで、タバコを吸って時間をつぶすことが多かったお年寄りにとって、生きがいにもつながっているのではないかと感じています。お年寄りに笑顔が増え、生きることそのものの自由度も変化しつつあるのを感じることができました。

    家計収入が増えた分が真っ先にタバコに行かないよう(笑)に、これからも折に触れて現地スタッフが事業地を訪れ技術指導などを継続していく予定です。生きがいを見出した新しい収入手段を得たことのインパクトはきっと長く続くだろうと思います。

    インドネシアの田んぼ

    オイスカのモットーは、プロジェクト期間が終了したら終わりではなく、その効果が持続するように、その後何年も村人に伴走して自立を後押しすることです。それは、彼らやその次の世代も笑顔で生活して欲しいからにほかなりません。

    アーカイブ