本部・啓発普及部の鈴木です。
タイやインドネシア、ミャンマー、フィリピンなどの東南アジアの国々は、旅行などでも訪れたことや写真や映像で、感覚的にどんな国でどんな人たちがどんな暮らしをしているのか想像ができますよね。でも、パプアニューギニア (PNG)はどうでしょう?
私には、PNGは未知の国すぎてなかなか想像が膨らみません。四国研修センターの指導員をしていた2004年にPNGの研修生が3人いましたが、いまだに、PNGの印象といえば、彼らの笑顔や彼らの周りにだけ漂うのんびりとした空気感の域を出ていないのが本音です。
パプアニューギニア(PNG)の駐在代表で、コロナ禍以降、長期滞在ビザが発給されないため、家族のいるPNGにいまだに戻れないままになっている荏原美知勝さんが事務所にいらっしゃいますので、私の興味の趣くままに色々と聞いてみました。
荏原さんはPNGに駐在して30年になりますので、想像もつかない経験がたくさんあるだろうと思います。
「軽自動車はおもちゃみたいだっていって、みんな乗らないんだよね」
日本では小回りが利いてとても乗りやすく、農業に携わる方にはなくてはならない乗り物だと思うのですが、えっ?おもちゃ??
「PNGの人たちは、とってもプライドが高いから」というのがその理由のようです。
「PNGの国旗を知っているでしょう。国旗には、南十字星と国鳥の極楽鳥が描かれているんだけど、自分たちの象徴の極楽鳥が被造物(神様が造られたもの)よりも上に描かれているでしょう。自分たちの方が上だと思っている現れなんじゃないかなと思ってるんだよね。」
「程度の差はあれど、人間は他の人と自分を比較して生きています。PNGの人は、よりその傾向が強いのかな?
例えば、オイスカの研修センターで3年間くらい稲作の研修を受けて村に帰ると、村の人は稲作の事をほとんど知らないので、自分は他の人たちよりも稲作を知っていると、優越感に浸って、満足してしまって、それ以上は学ぼうとしないんだよね。向上心というか、探求心があまりないのでしょうね。もちろん人にもよるだろうけどね。」
確かに、石の上にも3年ということわざがあるので、3年はあながち間違いではないのかも!?と思うものの、それ以上、学ぼうとしないとは・・・
「道を歩いていて、この建物、変な建物だなぁ。なんか歪んでいるし、変なところに窓を作っちゃった形跡があって、それをうまーく、わからないように隠してあったりしてね。隠す技術はピカイチ」と語り、楽しそうにケラケラ笑う。
「パプアニューギニアはネットの通信料が高いし、通信状況もあまり良くないから、ネットから情報をとることも少ないし、海外に出る人も少ない。そんなチャンスもないしね。それで井の中の蛙のようにになってしまうんだと思うよ。
だから、日本の研修センターで研修を受けるためにPNGから送り出す研修生に必ず言うことがあるんです。
『絶対に、「稲作はもう知ってます」とか、「ボカシ肥料の作り方は知ってます」と言うな』と。
知ってますと言った途端に、それ以上は何も教えてもらえなくなるでしょ。」
PNGの研修生は「知ってます」は禁句とされて日本で研修していたんだ。これから研修を受けようとする研修生に対する荏原さんの親心だなとこんなところにも感心。
私の興味は広がるばかり、次々と質問責めにする私の問いに、笑顔でお話を続けてくださいます。
「いつも人と比較をしていてね、昇進なんかすると周りからねたまれることが多くて、ブラックマジックを掛けられるんだよ」
ブラックマジックにピンとこない私(・・;)
“ブラックマジックとは、黒魔術と訳され、自己の欲求や欲望を満たすために行われる魔術”だそうな。
「ブラックマジックをかける人が近くにも何人もいてね。昇進したり、活躍したり、表彰されたりすると、やっかんでその人にブラックマジックをかけるんだよ。
ブラックマジックをかけられると、本当に急にガタガタ震えたり、事故にあったり、最悪、亡くなることもあるんだよね」
えっ!?
超科学的な世界だ。ますますPNGがわからなくなる私。
「ブラックマジックにかかった時は、それを治してくれるBush Doctorがいて治してくれるんだよ。私も何回か治してもらった。おまじないみたいなんだけど、何でかわからないけど治るんだよね。」
えっ?
治療したい人の体の隅々まで、お祈りしたニワトリを触れさせることで、その痛みが乗り移り、ニワトリを解体すると、悪いところが黒くなっていたりするのだそうな。それを薬草を絞った汁と一緒に調理して食べると治るのだそうです。
現代科学を超越した何かがある!?
(Bush Doctorのドクターソーガムさんの詳しい治療(?)方法はこちら
ラバウルでの呪術の思い出 2 – 公益財団法人オイスカ (oisca.org))
ラバウルでの呪術の思い出 1 – 公益財団法人オイスカ (oisca.org)
荏原さん不在の3年間に家族にもブラックマジックが!
荏原さんがPNGに戻れない、家長がいない3年間に奥さまがブラックマジックにかかったことはないですか?と聞くと、
「うん、あるよ」
その答えと答え方に、ブラックマジックがあまりにも日常にあるものなんだと悟った私。
「最初の2年間くらいの間に、夜中に突然、ガタガタと震えがとまらなくなったことが何回かあったって言ってたね。何回かこんなことがあった後、近くにブラックマジックをかけている人がいるはずだと、ローラ(奥さま)の妹の旦那さんが、家の外の物陰で見張っていたところ、やっぱりいたんだよ。同じ部落のあの人がブツブツと何やら呪文を唱えていたんだって」
何と恐ろしい世界・・・
「でも、誰の仕業かわかっても、その人に詰め寄ったり、怒ったりしてはいけないと、ローラが言うんだよね。怒らず、責めず。正しいと思っても、主張することがいいわけではないんだよ。家族が巻き込まれる事もあるからね。そういう世界なんだよね。」
と、意にも介さず楽しそうに語る。
ブラックマジックっていったい何なんだ?どうやって習得するのだろう?霊と交信できるような特別な能力がある人がするもの?
次々と湧く疑問
「研修センターのある地域は、トライ族が多く住んでいて、男性にはイニシエーション(正式な部族の成員として認められるための通過儀礼)があり、以前は数ヵたけど、今は1週間くらいかな。男性だけがイニシエーションのためだけに泊まる特別な家、ハウス・タバランで寝泊まりして、トライ族としての在り方やマナーみたいなものを教えるんだよね。
その時に、ブラックマジックのかけ方も教えるから、みんな知ってるんだと思うよ。それを使うか使わないかは個人によります」
(PNGには約3万年以上前から人が住んでいて、ヨーロッパ人に知られたのは、ポルトガルの探検家ダブル—が本島周辺を航海した1512年のこと。PNGの部族は800以上といわれる)(在日PNG大使館HPより)
司馬遼太郎の「菜の花の沖」という本に書かれていた「若衆組」というしきたりに似ているな。地域の規律やしきたりなどを伝える土俗的な組織として書かれていた記憶があるなぁ。日本にも同じようなことがあったということか・・・(不勉強で深堀りできておりません(・・;))
想像を超える興味深い話が次々と語られて、頭の整理が追いつかない
PNGに初めて行ったとき、カルチャーショックは受けなかったですか?という私の問いに、
「まったく」
と、にこやかに語る。
「その前に赴任していたパラオに似ていたし、私が赴任する前に、現地の人が、日本から荏原という人がここに来るからと、その土地の霊にそこの土地の言葉で許しを乞うてくれていたので、何にも悪いことは起きなかったしね」
この人は超人的だと悟った私。
私の興味はつきないので、またお話を伺ってみます。
▶PNGでの活動の様子はコチラ
▶最近の荏原さんのレポートはコチラ