吉田です。今年の5月下旬はほとんど雨が降らず、6月になってからは、中旬まででは過去10年で上位の約100㎜が降りました。6月16日夜半から昼までに、まとまって44㎜程度だったので、排水の様子を見に行きました。
名取市海岸林の北半分の広大な敷地は、震災後約2年半、名取市内のがれき全ての集積地と処分場になり、重機が走り回る場所でした。ですから、盛土の下は極めて固いことがわかっています。つまり、水が抜けにくいということです。森林総研による2018年の調査では、「土壌貫入計が折れそう」「50㎝以上下は掘れない」「穴を掘ると水が湧く」「グライ化(白い山砂が青くなっている)している」と専門家が話すのをその場で聞きました。元の地盤、つまり海砂が重機やダンプで「転圧」されたことによるあまりの硬さによって、この場所ではクロマツの根は深くは刺さらず、雨水の浸透も期待できないかもしれません。ですが、根が深くなくても、広く根を張ることができれば、津波にも耐えるレベルの強度があるという研究結果があります。「間伐」の大きな意義と期待です。
上の写真は2013年4月10日の国連NGO課長のアブラモフ氏とともに、名取市海岸林の北側全体を占める規模の瓦礫処分場を、西松建設さんの案内していただいた時のものです。
さらに2年さかのぼって震災後まで振り返ると、2011年5月25日に清藤城宏先生や松島森林総合の佐々木勝義代表や私などオイスカ調査団8名でここに行きました。あたり一面はクロマツの「倒伏」でした。間伐が一度もされていなかったため、「幹が細い」「根周りが小さかった」と清藤城宏先生が結論付けたことが、とても印象に残っています。
上の写真は、2011年5月25日のオイスカ調査で撮影。名取市サイクルスポーツセンター周辺
排水対策としてのボランティアによる溝切りは、名取市海岸林南部で2015年から本格的に始めました。「雨水の8割は林外に出したい。残る2割は、蒸発1割と浸透1割」と佐々木統括が何度も言っておりました。2016年には中央部から北での植栽が始まりましたが、滞水と排水先に困る場所ばかりでした。例えば、村井知事や佐々木前市長が植えた2016年植栽地の約4haは、溝切りした2年後からはっきりとした生長を見せていることが、その場のマツを見ればわかるので、いつも説明する場所です。この前の6月16日の44㎜の雨の直後は、排水口から音が聞こえるほど、滝のように流れ出ています。ここはボランティアによる排水溝修復と大幅増設により、国の工事で設けられた「排水口」も「排水先」を活かせるようになり、努力が実りました。
サイクルセンター周辺は2018年に植栽しましたが、夏の大雨でクロマツの間をカモが泳いていました。田んぼの様でした。引いたように見えても歩くと泥濘があり、苔が生えている場所もある。「2週間水か引かないと枯れる」と統括が言います。ここだけは本当に枯れるかもしれないと思いました。
そして大小様々な「溝切り」を4年越しで続け、最も多湿度が酷く、湿地に生える葦だらけの場所も、今年の春ようやく溝切りを終え、5月13日にタイの方たちに補植してもらうにまでなりました。サイクルセンター屋上から見ると、それがどこかすぐわかります。マツで鬱閉されて地面が見えなくなるまで葦は生えると思いますが。5月13日のタイの漁民の手による補植120本のその後は、2週間、1ヵ月が経ち、1本も枯れていません。活着率100%です。
国も作業道を50㎝掘り下げて、道路兼用の遊水池を掘ってくれました。5月13日に完成した300mの排水溝を伝ってこの遊水池まで排水できれば、元の地盤の海砂がすぐ下。実際にこれまで遊水池が滞水したことはありません。
2015年以降、溝切りを続けてきました。ボランティアによる前人未到の努力とも言えると思っています。まだ溝切りしたい場所はあるのですが、これから私たちが為すべきことは、葛との戦い、病虫害の防除など山ほどありますが、とにかく確実な間伐(本数調整伐)の実行です。根周りがしっかり広がっている、最強の海岸防災林に仕立てることだと思っています。与えられた条件のなかで、様々な方たちと一緒に、最大限の努力をして、最終的に後世の人にも愛される海岸林にしたいと思います。