2024年6月26日

「私はただ緑を増やしたいだけなんです」~フィリピン最北部アブラ州に豪傑あり~②

  • フィリピン
  • ①のつづき

    本部・啓発普及部の吉田です。

    2019年、16年ぶりだった前回のフィリピン出張の際、何を見に行くとも告げられずに、山奥の活動地に案内されました。現場でよく聞くと、そこは「子供の森」計画(CFP)参加校の村人が、デルフィンさん(現地スタッフ/オイスカ・アブラ農林業研修センター所長)の指導のもと「Self reliance(自助努力)」で50haもの森をつくり、二期作の棚田を復活させた地域の森(Community Forest Program)でした。そして、帰国後しばらくして疑問が膨らみました。アブラでの植林実績は約30年で200haと聞いていたが、そんなわけはない。この人ならこのやり方を他の村でもやっているはずと。

    そして今回の徹底踏査で、その疑問は解決しました。すでにCFP開始時の90年代の時点で、学校林という「点」同士を、街路樹という「線」でつなぎ、可能な場所は勢いのまま一気に「面」へと拡大するという「意図」だったことが分かりました。

    アブラ・南北イロコス州「子供の森」計画実施校の位置図
    アブラ街路樹イメージ図

    「単なる街路樹」などと馬鹿にせず、戦略的な「線」として活かす緑化の展開は、私はこれまで聞いたことがありません。今回は実際のスケールに驚き、毎日なかなか寝付けませんでした。もし私が同じ立場だったら線を使うか?と。普通、決められたところだけ、点か面として型通り考えると思います。「もっと植えましょう!」と行政や村人を一気に説得し、道路に沿った傾斜30度もあるような岩だらけの山であっても、全長3㎞以上、尾根まで植えていました。今回は線を面にするような「コミュニティーフォレスト」を18ヵ所視察しました。「吉田さん、Community Forest ProgramもCFPですよね」と所長は言いました。

    植えて15年、20年経てば、村の生活は変わります。11月以降ほぼ雨が降っていない乾季の真っ只中で、私が目にしたのは、成長した森を水源にした水田地帯、山火事アラートが近年最高値を示している中でも青物野菜が育つ圃場、憩いの場になっている見事な湧き水プール………。理想的な里山・中山間地、Super Community Forestが、自助努力によってアブラに生まれていることを理解しました。

    「子供の森」計画の1haがコミュニティーフォレスト50haになり、稲の2期作もできる棚田に
    Bucay町 コミュニティーフォレスト群を水源にした湧水プール

    ではなぜ、所長はこういう事実をこれまで口外しなかったのか・・・なぜ?の答えは言ってくれません。「あなたには秘密はありません。初めて案内します」とだけ。ぶっきらぼうでした。あとは見て考えてくれと。もはや聞くのは野暮でした。アブラの植林実績が、デルフィンさんや村人たちの「自助努力」の成果であることを知らない人たちが見れば、アブラだけ実績が突出していることに対し、疑問の声があがったり、アブラだけ資金配分が多いのではないかと勘繰られたりすることもあるかもしれません。そんなことを考えて長年ずっと黙っていたのでしょう・・・。
    デルフィンさんは本当に「ただ植えたかった」だけなのです。当時植えたジェメリーナは、種子採取も育苗も簡単で(つまり、極めて低コスト)、荒野にも山火事にもめっぽう強い早生樹。しかも落葉樹なので肥料木でもある。苗木は無数に作れる。村人のボランティア精神があれば、際限なく植えられたと思います。「一日植林して疲れて、道端で村の人とお酒を飲んで、そのまま寝た」といった思い出話も聞きました。いまは格段に良くなった道々ですが、かつてはどこもひどい悪路だったはず。植えるのは雨期。行くのも帰るのも、大変な苦労だったことでしょう。

    ジェメリーナ造林地が「複層林」化
    ドロレスーサヌアン町双方から繋がるコミュニティーフォレスト

    つづく

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