タイ駐在代表の春日智実です。
7月にタイ北部のチェンライ県チェンコン郡のある村に行ってきました。
以前から、チェンコン郡を担当するスタッフのスティン君が
『村人たちが森を再生させたいと願っている場所がある。森づくりのプロジェクトをやらせて欲しい』
と熱心に訴えてきていました。
その場所が100ha近いというので、プロジェクトをやるならば綿密に計画を練り、相当頑張って資金を集めなければならず、やすやすとOKとも言えません。そこでその場所を本腰入れて確認するためにチェンコン郡に行ってきました。
とはいえ、そんな大きな取り組みのお金が集められる目処はまだ全くありません。今のところ、このプロジェクトに充てられる資金はゼロ。1バーツもありません。
メコン川の雄大な流れの向こうはラオス
メコン川水系は言うまでもなくタイのみならず、隣国ラオス、ベトナム、カンボジアと多くの国がその恵みを享受しています。川周辺の環境を保全していくことの大切さは言わずもがな……ではあります。しかし、その資金が集められるだろうか……。
N連(日本NGO連携無償資金協力|外務省)のプロジェクトのために政府からいただく資金は当然ながら別のプロジェクトには一切使えません。支援が付くかどうかで、プロジェクトごとの資金のバランスは極端に悪く、タイ全体のプロジェクトをマネジメントする私にとって、ここが泣きどころです。今回の出張も半分自腹……
地元の村近くであるこの村を何とかしたいと頑張るスティン君と、このメコン川周辺の小さな村を応援したい気持ちは確かにあります。しかし、それにしても規模が大きい……
朝から村長さんや村のメンバーが数人集まってくれて、聞き取りに協力してくれました。
「水源林だった森が違法に農地化され、水源林としての機能を失ってからは水が極端に減った」
「立派な木々を失った山には焼畑の火が入りやすくなり、何度も火事があった」
「その後、違法に土地を利用していた侵入者は政府によって排除され、土地は地域の管理下に置かれるようになった」
といういきさつを聞いてから、とりあえず森を再生させたいと願っている山を目指しました。
奥にある山が対象なのですが、手前に広がる農地にとって、水量の減少が痛手なのは容易に想像できる光景でした。
レンタカーから村のおじさんのバイクの後ろに乗り換えて、更に上を目指します。
更にバイクを降りて、みんなでゴム畑の間を進むと…
昔は豊富に水が流れていた、という山の中のかつての川に連れて来てくれたけど、今はただの溝。
今は雨季だと言うのに水の流れは全くなく、わずかな水をつないだパイプで畑まで伸ばしているのだそうです。かつてはこの山の沢として豊かな水の流れがあった場所だとは、にわかには信じがたいです。
下方でほんのわずか、水たまりが見られました。流れのない水が、水源林としての機能を失っていることを物語っています。
ゴム畑のさらに上に登り、対象地が見えそうな場所へ移動
みかん畑も広がっています。ちなみにこの辺りの農場は、合法的に土地の所有権を持って農業を営んでいるようです。
しかし、水タンクの周りには化学薬品のゴミが散乱。こうしたみかん畑では農薬などの化学薬品がたくさん使われているだろうことが想像できます。かと言って、少しでも早く確実に収穫して収入を得たい農民たちにとって、よそ者が『有機農業にするべきだ!』なんて簡単に言ったところでおそらく逆効果です。意識を変えるには時間と努力と根気が必要だからです。そして何より、信頼関係の醸成が必要なのです。
オイスカがこの地でプロジェクトを実施する場合、地域に根ざして頑張るスティン君の存在がカギになります。まったくのよそ者が地元の人といちから信頼関係を築いていくのは相当の努力が必要になります。地域に根ざしていて、地元住民との信頼関係のあるスティン君がいることの意義はとても大きいのです。
比較的高い場所まできましたが、少しまだわかりにくい。この先の広大な土地だと言います。
一見、緑豊かに見えますが、焼畑農業の果てに没収された土地が放置され、低木や草が生い茂った状態のようです。だから、豊かに見えても水を枯れさせてしまう山となってしまっているのです。
バイクで案内してくれた村の方々にお礼を言い、『プロジェクト実施の努力はするけど、たぶん時間がかかるだろう』と念を押し、別れてから麓の村でお昼ご飯。
カオソイという北部タイの名物料理があると言うので頼んでみたら、よくあるカレーラーメンみたいなカオソイではなく、坦々麺風カオソイでした。ひき肉と辛めの赤いスープが麺に絡んで、これはこれで美味しかったです。
さて、午後はスティン君の案内で改めて上の別の角度から対象地を確認しました。
山々が連なるこの辺りは、長野県民の私には心を落ち着かせてくれる素晴らしい場所なのですが、山肌はモザイク状に農地として利用されているのがよくわかります。
途中で、山の麓の方にスティン君の村、山岳民族カム族の村も見えました。
現場は車では到底無理なので、スティン君のバイクの後ろに乗せてもらっているのですが、山道はかなりのオフロード。
川のような場所も足を上げてバイクで突っ込む!
一面のトウモロコシ畑など、今でも焼畑による農業が続けられています
焼畑農業自体は彼らの伝統文化ですので、否定するようなものではありません。今は、土地の権利を持ってやっている場合が多くなりました。しかし、違法に水源林を開拓し、無計画に土地を利用している場合は政府によって取り締られ、返還させられています。政府は、地すべりや土砂崩れ、渇水などの災害対策としても厳しい政策を取り始めています。
「さあ、見えたよ!」
スティン君が指すあの山が対象地です。
緑が濃いのは何年も放置され、草などが生い茂ったためです。しかしあそこもかつては手前のトウモロコシ畑のような山肌が晒された場所でした。
せっかく違法侵入者から返還された土地も放置され、豊かな森に戻されていないのです。かつてわずかな植林資金が政府から村に提供されましたが、森の形成にはいたりませんでした。オイスカは、植えた後の管理にも手間をかけ、森が蘇るまで、村と二人三脚で並走し、その間に村人への啓発に力を入れていくことで確かな森を作ります。
とはいえ、政府にできてオイスカにできないことの方が山ほどあるのは言うまでもありません。ですから、政府とオイスカがお互いの強みを活かし、弱点を補い合い、政府や地元自治体などと協働でプロジェクトを進めていくのです。
道路の左側は対象地。背丈の何倍もの高さの茅のような草が茂っています。火事になると一気に燃え広がります。山火事が何度もあった、というのも十分頷けます。
さあ、この100ヘクタールのメコン川の近くの森の再生。来年から(もしくは「徐々に」今年は準備期間中)本腰を入れて取り組み始めます。
資金の目処はまったく立っていませんが、目の前の困っている人たちを放ってはおけません。オイスカの堅実さと確かな実績を頼って森づくりの協力を求めてきた村に協力します。
対象地は100ヘクタールですが、数ヘクタールから実施することを計画しています。
このプロジェクトに必要な資金は途方もないのですが第一期として30ヘクタールで1800万円、一歩づつ、ゆっくりと、タイのお寺式にお金を集めつつできる範囲で前進しながら、歩みを進めていきます。
まだ資金ゼロのこのプロジェクトにご賛同くださる企業や団体、個人の方がいらっしゃいましたら、ぜひ oisca@oisca.org またはホームぺージ内の「お問い合わせ」からご連絡ください! 詳細をお話させていただきます。