海外事業部の萬代です。
私は、オイスカで28年間、養蚕に携わっています。
養蚕に携わり始めたころは、関東地方近辺では、山梨県や群馬県に養蚕農家が点在していましたが、今では、高齢や後継者がいないことを理由に廃業した農家が多く、寂しい限りです。
頑固一徹に養蚕を守り抜いていた農家さんが廃業すると聞くのは、本当に寂しいことです。
少しの資本で始められる養蚕は、海外の農村で、貧しい農家の生活を豊かにすることができるのではないかと、30年前、飢餓の島といわれたフィリピンのネグロス島(セブ島の隣の島)で養蚕事業を立ち上げました。
長年、養蚕に携わってきて、いくつかの国の養蚕を見て回りましたが、日本の養蚕技術の高さは世界一だと思っています。衰退していく日本の養蚕の技術を何とか残していきたいという思いがあります。
最近、蚕の繭から成分を抽出して作られた化粧品がテレビのコマーシャルで紹介されることがあります。ご覧になったことはありますか?
繭は、蚕が吐き出す細い糸でできていますが、この糸は、フィブロインという繊維状のたんぱく質とその外側を覆うセリシンで作られています。
セリシンの効果はよく知られているように、抗酸化、メラニン抑制、紫外線カット、コラーゲンの精製を助けるなど、美容には素晴らしい効果があります。
この化粧品の原料はタイの「J.T.Silk」という会社が製造しています。
タイでの化粧品原料の製造と、オイスカとは関わりがないように思いますが、
実は、J.T.Silkでは、オイスカバゴ研修センター(フィリピン ネグロス島)のスタッフ ジンジさんが蚕種製造の技術指導に携わっています。
(ジンジさんに関する記事はコチラ 「フィリピン出張報告 台風被害から復旧したバゴ研修センター と 養蚕事業」)
蚕種製造というのは、蚕の卵を生産することです。
ジンジさんは、オイスカの外部委託研修制度で、2009年に山梨県の芦澤養蚕で研修を受け、その後、オイスカバゴ研修センターの養蚕事業の中心となって活躍しています。
ジンジさんの蚕種製造や新品種開発の技術は、ネグロス島での養蚕事業を始めた当初から、桑の栽培から蚕の飼育、生糸の生産に至るまで、養蚕の全分野で専門的指導を受けている宮澤専門家(長野県松本市)からの指導によるものです。
日本の技術がフィリピンのジンジさんに受け継がれています。
宮澤専門家が、タイのJ.T.Silkでの技術指導にも関わっていた関係から、ジンジさんを紹介したのがきっかけです。
フィリピン国内で、蚕種製造の分野では彼の豊富な知識と高い技術が高く評価されていますし、語学が堪能で、真面目な性格はきっとタイでも快く受けいれられ、技術力が発揮できるだろうと、バゴ研修センターの渡辺所長も自信をもってタイへ送り出しました。
宮澤専門家自ら、日本からフィリピンを経由して彼とともに、タイを訪れ、チェンマイにあるJ.T.Silkに紹介したのが2015年です。その後、1回の滞在が2か月間で年に2回のペースで、蚕の品種の系統保存や新品種づくりのための技術指導に行っています。
J.T.Silkの社長の江上さんには、私も何度か会ったことがあります。
江上さんは、日本人がかつて築き上げてきた紡績機や養蚕具の技術、蚕種の保存などが、養蚕関係者の高齢化によって失われてしまうことに危機感を持ち、もともと養蚕業を営んでいた北タイで技術の保存をしようと考えたようです。
私も、日本の養蚕業の衰退を目の当たりにしてきましたので、江上さんの思いに共感するところもありました。
日本からの開発援助、こうした南南協力(※)を通じて、日本の養蚕技術の継承ができることを願っています。
(※南南協力とは、開発途上国の中で、ある分野において開発の進んだ国が、別の途上国の開発を支援することです。-JICA HPより-)
一方で、彼は今後のネグロス島での養蚕事業を担っていく重要な一人です。
ネグロス島での養蚕事業の中心となっているオイスカバゴ研修センターでは、生糸生産体制は整っているものの、ビジネスとして確立するまでには至っておらず、課題があります。
ネグロス島での養蚕業の発展のためにも、私もさらに尽力していきます。
6月15日から始まった「2023オイスカ夏募金」は8月20日までです。終了まであと7日!!
私たちオイスカと一緒に、「住み続けられる未来」のための活動を推進しましょう!!