海外事業部の萬代です。
コロナ禍で3年以上も海外出張ができませんでしたが、諸々の業務調整や調査が必要になったことから、5月11日から19日までフィリピンに出張しました。
主な目的は、「2019年より3年計画で実施したネグロス 養蚕事業 をモデルとする養蚕普及全国展開支援活動のその後の状況確認」と「新たな拡大計画に向けた下調査」でしたが、一昨年末に台風被害を受けた ネグロス島 にも足を運び、その後の 養蚕事業 の様子を視察してきました。
主に台風からの復旧状況について報告します。
1年半ほど前の 2021年12月16、17日に台風22号(ライ)の影響をフィリピン各地で受け、ネグロス島で77人が犠牲となりました。
ネグロス島のバゴ研修センターの敷地内では、幹の直径50センチほどの大木がすべて倒れ、ボイラー棟や木造のゲストハウスの屋根など、8棟に直撃し、損壊しました。
➡研修センターの被害の様子はこちらの動画をご覧ください
➡復旧の様子はこちらのレポートをご覧ください
日本国内からも多くの方々からのご支援をいただき、復旧したとの連絡は受けていましたが、復旧状況や被災した養蚕農家のその後の状況も確認してきました。
被害を受けた研修センターの研修棟、宿泊棟、食堂等はきれいに修復されていて、特に食堂やキッチンは以前よりもきれいになっており、スタッフが喜んでいました。
また、数軒の養蚕農家も見てきましたが、台風で倒壊した壮蚕所(蚕の飼育所)が、JICAからの資材提供で、以前の建物よりも立派になったと農家が大変喜んでいました。
地域によっては、以前より立派になった飼育所をみて、近隣の農家が自分も養蚕をやってみたいと希望しているとのことでした。
現在の養蚕農家の状況は、2~3年続いたコロナ禍の厳しい移動制限により、養蚕を行うことができず、止めた農家もいるようですが、コロナも収束の兆しが見え、新たに養蚕を始めたいと希望している農家もでてきました。研修センターの養蚕普及員スタッフ(研修センターOB)らも希望に応えて積極的に指導していきたいと意欲を見せていました。
去年の繭の生産量は5トンほどで、生糸も1トン弱の実績でしたが、今年は、新たな養蚕農家や被害を受けた農家が本格的に再開していくことが期待されているので、繭生産及び生糸の生産量も2倍を目標にしているとのこと。
さらに、ネグロス島中央部のイサベラという町では、神父さんが自ら先頭に立って養蚕をしながら、農民が生活の糧を得る手段として養蚕を積極的に推奨していました。すでに20戸の農家が養蚕を新たに始める準備ができているようです。
イサベラの養蚕農家を訪問。台風で壮蚕所が倒壊したが、JICAからの資材支援をうけ、立派な建物が完成していた。
壮蚕所の中は、蚕を飼う準備ができていた
バゴ研修センターから支援を受けた桑の苗1000本が植えられていた
喉が渇いたでしょうからと、庭で収穫したココナッツやバナナでおもてなししていただいた(左から2人目が筆者)
バゴ研修センターは、有機循環型農業と養蚕の普及拠点として、ネグロス島だけでなく、近隣の島からも研修生を受け入れています。現在、7人の研修生が稲作や野菜栽培、養蚕の研修を受けています。2016年から2年間、四国研修センターでの指導経験もあるリッチーさんが、日本での指導と農業の経験も活かし、指導員として活躍しています。
研修センターの渡辺重美所長は、先日まで日本に長期一時帰国しており、所長の代わりを務めていたのが2009年に山梨県の芦澤養蚕で養蚕の研修を受けたジンジさんです。
彼は、12月下旬から今年3月下旬までの3ヵ月間、タイのJ.T.Silkという会社からの要請を受けて、蚕種(蚕の卵を生産する)技術指導に行ってました。
ジンジ君は、長野県の養蚕専門家の宮澤先生から蚕種製造技術を学び、彼の技術はフィリピン国内でも一目置かれている存在です。
フィリピン政府も彼の技術力を高く評価しています。
バゴ研修センターの養蚕普及員、事務スタッフ、機織りスタッフ、研修生。左端がジンジさん
ネグロス島で生産される生糸は、フィリピン全体の9割を占めるまでに成長しています。小さな資本でも始められる養蚕は、貧しい農家が貧困から立ち上がる大きなチャンスになると考えています。養蚕に適する気候があるため、フィリピン国内でも養蚕ができる地域が限定されますが、フィリピンの養蚕業の発展のために、今後も手を尽くしていきます。
6月15日から「2023オイスカ夏募金」が始まりました。
オイスカの活動へのご支援をどうぞよろしくお願いします。
詳しくはこちらのサイトをご覧ください。ジンジさんのコメントも掲載されていますので、ぜひご覧ください。