海岸林の再生は‟ふるさとへの恩返し活動”

2017年8月2日( カテゴリー: 本部発 )

7月24日、第一回インフラメンテナンス大賞の表彰式が行われました。(7/30付ブログでも紹介しています)
表彰式の後、各大臣賞を受賞した団体のプレゼンテーションがありました。
今回いただいた農林水産大臣賞は「名取市海岸林再生の会」と「オイスカ」の連名でいただいた賞ですので、再生の会の鈴木英二会長がご挨拶をさせていただきました。
インフラメンテナンス大賞1インフラメンテナンス大賞2
英二会長が発表した原稿をご紹介します。
再生の会のみなさんの海岸林再生への決意や強い想いをあらためて感じます。
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ご挨拶

宮城県・名取市海岸林再生の会 会長 鈴木英二

本日は、「インフラ・メンテナンス大賞」に様々な部門がある中、“メンテナンスを支える活動部門”の農林水産大臣賞に選んでいただき、この表彰式に参加できましたことを深くお礼申し上げます。
私たちは、2011年3月11日まで、仙台空港の海側、戸数100戸、住民400人の「北釜」という集落で暮らしておりました。
私は、仙台空港の入口で駐車場を経営しておりますので、地震が起きた後、急いで駐車場に戻りました。ところが事務所に誰もいないので、「みんな、どうした?」と思いながら、ふと海の方を見ると、空が真っ暗になり、大きな津波が見えました。
急いで車に乗り、避難所に指定されていた仙台空港の建物へ向かいましたが、避難階段までの道路が遠回りしてUターンする形なので、最後は、津波に向かう形で階段にたどり着き、車のドアを開け階段を駆け上がろうとしたときには、津波が膝まできていました。この間、30秒くらいだったと思います。
後でわかったことですが、毎日新聞社のカメラマン、手塚耕一郎さんが午後3時55分から56分にかけて撮影した写真で、その年の新聞協会賞を受賞しましたが、その中に私の命が助かった理由がわかる1枚の写真がありました。
私の駐車場の海側に私の自宅があり、その先に小高い丘があり海岸林が生い茂っていました。それまでは、私たちにとっては散歩道であり、キノコ採りや秋には冬場の燃料のための松葉さらいをする場所でした。
この海岸林を真横の上空から撮影した写真には、津波が波打っている様子が写っていまして、私の自宅、駐車場、そして仙台空港へ逃げる道路の方向へ向かう波が遅れてやってくる様子が写っていました。
私は、この小高い丘のしっかりと根を張った海岸林があったために、津波の速度が‟30秒”ほど遅くなり、命を助けてもらったわけです。
私たちの集落は、先祖の言い伝えを守って海岸林と共に生きてきました。従いまして、自分たちも一緒になってこの海岸林を再生し、今後も防風、防潮、防砂など、社会的インフラとして後世に遺していく責務があります。
ですから、オイスカの皆さんが私たちの地域を選んでくださったことにも感謝しておりますし、単に苗木を育てて植林するということだけではなく、将来に「ふるさと」を残したいというその信念で取り組むこととしました。
私達は、オイスカが提唱する「地域の住民と共に活動する」という考えや「決して押し付けない」という‟オイスカ方式”に賛同し、多くの仲間が命を落として、この先どうしようかという時期に、意を決して、被災地で唯一の被災者による海岸林再生活動を行うことにしました。
とは言いましても、勝手にできる内容でもありませんでしたので、地権者である、国・県・市や関係機関の皆様のご理解、ご指導、また林業種苗法に基づく講習の受講や種苗農家としての登録、そして、震災から8ヵ月後には晴れて種苗組合への加入も認めていただきました。
また、苗づくりのための土地の確保、山から運んだ土の入れ替え等は、翌年の1月から2月ごろ、ちょうど辺り一面が雪の中での作業でした。
春先には、分けていただいたクロマツの種を播くことができ、その30日後には種がらの帽子をかぶったかわいい苗が生えてきた姿を見た時は‟わぁ~”と歓声があがり、みんなで喜び合いました。みんな‟めんこい” ‟めんこい”と口々に話していたのを思い出します。
現在は、植栽活動も順調に推移し、完了面積は50ヘクタール、植栽可能面積の約70%にあたります。活着率は、当初の98.4%から今年は何と99.8%にものぼっています。
被災者支援の雇用総数は、今年の3月現在で4,652人となり、2021年までに延べ11,400人の計画があります。
おかげさまでこの活動の様子は、国内ばかりでなく世界中に広がり、多くの方々からのご寄附、ボランティア活動への参加、各国政府要人や研究組織、企業関係者やCSR部員の視察、子どもたちの研修など、さまざまな機会創出の場となっています。
最後に、この活動は「北釜」の仲間(住民)がこれから先も一緒に住むことができないという現実の中での、自分たちのふるさとへの恩返し活動でもあるということも申し添えさせていただきたいと思います。
私たちの念いを皆さまにお聞きいただきましたことに、改めて感謝申し上げ、海岸林再生活動の取り組みのご報告とさせていただきます。
ありがとうございました。

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