前回、クロマツの苗を海岸に植える作業を「海岸林再生プロジェクト」の肝だと言いましたが、もう一つ、肝がありました。海岸という悪条件に耐えられる丈夫な植える苗を育てる作業です。前回も書きましたが、名取市海岸林再生の会がつくった苗はことし、宮城県山林種苗品評会で最優秀賞をとりました。これからも頑張ろう、というわけで、クロマツの種まきが先だっての4月27、28の両日、名取市の育苗場でありました。
海岸に苗を植えるのが職人技だとしたら、種まきはチームワークの作業です。まくのはマツクイムシに強い宮城県産の抵抗性クロマツの種1・2キロ。5万5千粒ほどにもなります。素人には気の遠くなるような数なのですが、約20人で、28日の午前中には、予定を半日あまして終えてしまいました。
種まきというのは、いくつもの細かい作業の積み重ねです。一つ一つは決して難しい仕事ではないように思えます。こんな手順です。
①トラクターで畑の地ならしをする→②ビニールハウスに用意してあったコンテナポット(苗をまくために土を詰めた容器)を軽トラックで畑に運んで並べる→③コンテナポットの上から水をまく→④ポットの土に木の棒で小さな穴をあける→⑤その穴に種を一粒ずつ入れる→⑥穴を埋め、足りなければ土を足す→⑦乾燥や寒さを防ぐためポットの上にムシロと合成繊維の覆いを二重にかける→⑧最後にもう一度上から水をまく。
仕事はこれだけではありません。コンテナポットに土を詰める作業は3月にありました。種を5万粒まくためには、土詰めも5万回必要です。300ccの土を詰め、缶コーヒーの空き缶で適度に固めるという、これまた地味な仕事でした。また、種は数日前から水につけ、まく日の朝にはベビーパウダーをまぶします。発芽を促すとともに、まいた種がよく見えるようにする工夫です。コンテナポットを並べるとき曲がらないように目印に糸を張るようなきめ細かさもあります。
そして何より、種をいつまけばいいのか、の決断がありました。気温の上昇具合など見ながら、種まきに最適なタイミングを探すのは佐々木廣一統括の役目です。
こうした数多くの仕事が、よどみなく行われていく。種まき当日は好天でしたが、それにしても、傍から見ていると気持ちよく仕事が進んでいく。人によって仕事の速さや丁寧さに多少のばらつきがあるのはしょうがないのですが、それぞれが遅れている工程にさっと入っていく様子は見事でした。下を向いて黙々と、という作業が多く、そのうちに飽きて集中力がなくなりそうです。そこはおしゃべりで気を紛らわし、効率を上げているようでもありました。作業はボランティアではなく給与が支払われています。だから真面目にやって当たり前ではあるのですけれど、きちんと仕事をすることの美しさのようなものが現場にはありました。
私自身は種まきは二度目です。去年はしゃがみこんだ姿勢を取り続けたため腰を痛めてしまったので、今回はコルセットを着け、ズボンを汚してもいいからなるべく楽な姿勢でやろうと決めていました。プロジェクト自体の種まきは震災の翌年に始まりことしが六回目。試行錯誤を繰り返しながら、ふさわしい形に収れんしてきたようです。苗づくりを担う「名取市海岸林再生の会」には農業を営む人も多く、それぞれが一国一城の主です。そのせいか、作業中には「みんな、考えてることが違うから」などとぼやく声も聞こえましたが、それがただの冗談に聞こえるほど、仕事はつつがなく終わったようでした。種の数をちょっと読み間違え、土を詰めたコンテナが足りなくなって種が数百粒余ってしまったのが、唯一の小さな失敗だったでしょうか。
種は2、3週間で発芽し、順調に育ったものが2年後に海岸に植えられます。そして、種まきは来年で終わるといいます。プロジェクト第1次10ヵ年計画も第3コーナーです。