2024年6月1日

「私はただ緑を増やしたいだけなんです」~フィリピン最北部 アブラ 州に豪傑あり~①

  • フィリピン
  • 本部・啓発普及部の吉田です。

    3月上旬2週間、フィリピン最北部 アブラ 州・南イロコス州に出張し、遅くなりましたが、職員に向けたオンライン出張報告会をしました。

    アブラ 農林業研修センター(以下「TC」)のデルフィン・テソロ所長は65歳、私は55歳。お互いにおじさんになりました。私は宮城の海岸林を手がけました(海岸林再生プロジェクト)が、彼は現場に何度も来てくださりましたし、お互いを励みに頑張ってきたと思います。

    今回の出張では「子供の森」計画参加校15校、各幹線道路の街路樹植林地、そして、コミュニティーフォレスト18ヵ所を踏査しました。フィリピン国内で指折りの自然環境の厳しいこの場所の、わずかな里山、中山間地の緑の多くは、「ほぼすべてオイスカが関わった」と言って良い、知られざる巨大造林地だということがやっと分かりました。どれほど多くの人を説得し、行動をともにするに至ったのか……。

    デルフィン・テソロ所長

    タイトルの「ただ緑を増やしたいだけ」というセリフは、今回の出張中に耳にした運転中のつぶやきです。緑化への変わらぬ熱意も確認しました。でなければ、あの難易度が高いはげ山100haを引き受けるはずがない。国道に面しているので山火事リスク高く、最近燃えた跡もあり、斜面は40度近くの岩山。生えている草は「土壌」がないことを示す細く固い葉のイネ科系。風当たりの強い凸地形。こんな土地でも、「国から託されることが(オイスカとしての)プライド」と言っていました。

    1991年、「子供の森」計画(Children Forest Program「CFP」)は、 アブラ を含むフィリピンとスリランカでスタートし、現在、各国で5,000校以上が参加。その多くは学校の敷地内や隣接地など、1haにも満たない小さな森です。私がオイスカに勤め始めたその頃は一大運動として、国内では街頭募金もし、海外でも各所で大規模に植えていました。

    アブラ 州は、マニラから北に車で約10時間。大阪府(人口約900万人)の2倍の面積に人口25万人。急傾斜地が州内の7割という山岳盆地で、「災害のデパート」の如く、2年連続の大地震もありました。台風の常襲地帯。風水害・土砂崩れリスクのない地区はほぼありません。州外への安定的な幹線道路は1ヵ所。工業はきわめて零細で、農業以外の主産業もありません。それゆえ「地形的孤立による貧困」と例えられ、「国内81州のうち競争力74位」「最貧10州」とも言われます。急傾斜地での森林は文字通り劣化し、州の入口から手のつけようのない裸山が連なり、アブラ 河流域の森林被覆率は8%というデータもあるようです。

    このような環境下において、州内にある160校の小学校のうち90校でCFPを実施していることからも、人口に占める受益者率がとても高いと考えています。私がアブラを初訪問した1997年、私とボランティアの学生でCFP実施の26校を訪問。デルフィン所長は、行く先々で「Self reliance(自助努力)」を村人に呼び掛けていました。この言葉は私にとっても原点であり続けています。

    アブラ州土砂崩れ・地すべり・洪水総合ハザードマップ(無色・色の薄いリスクの少ない場所がない)

    オイスカが植えた街路樹も延々とありました。すでに電信柱ぐらいの高さだったと記憶しています。かつて、アメリカの「平和部隊」も盛んに街路樹植林をしたそうです。

    つづく

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