(独)国際協力機構(JICA)から受託し、中部日本研修センターで実施した「環境保全型有機農業技術」コースの2年目(2009年度)のケニアの研修生からレポートが届きました。
帰国後は、試行錯誤しながらもケニアの農業の発展のために努力している姿が印象的で、研修後13年たった今でも、同期の研修生と連絡を取り、励ましあい、切磋琢磨している様子に、「人を育む」ことを活動の柱とするオイスカの真骨頂を見る思いです。
ケニアのEileen Bureza(エイリーン)です。
ケニアの基幹産業は農業で、紅茶やコーヒー、園芸作物の産地として世界的に知られています。私は将来、農業分野で働くことを夢見て、ナイロビ大学で農学部の学士号を取得しました。
大学卒業後、3年間農務省に勤務する中で、有機農業の単科大学で講師をしていた経験から、オイスカでの農業研修の話が舞い込みました。環境に負荷をかけない有機農業の実践的な知識を得るには、オイスカでの研修が非常に有効だと考え、日本での研修を受けることを決意しました。
2009年、私はJICAプログラムでの研修でしたが、オイスカの研修コースの研修生を含めて、フィリピン、トルコ、ミャンマー、パプアニューギニア、マダガスカル、ホンジュラス、パナマ、バングラデシュからの14人とともに、オイスカ中部日本研修センターで有機農業の研修を受けました。研修では、農業に関する実践的な知識や技術に加え、どんな状況でも力を発揮できるような内面の強さも養われたように思います。私は日本語があまり上手ではなかったので、短期ホームステイの両親とコミュニケーションをとるのにとても苦労しました。それでも、ホームステイの経験は素晴らしいものでした。今でも心に残っていますし、ゴミの捨て方などのルールは、家庭を持った今、我が家のルールになっています。
ケニアでは、移動中の車からゴミを捨てることは禁止されていますが、現実にはたくさんのゴミが捨てられています。頭でわかっていることと、行動できることは別です。ホームステイ先での家庭内でのゴミの捨て方のルールや、研修センターでの所長も含めた全員での掃除の時間は、当事者が協力して取り組み、行動を変えることが大切だということを教えてくれました。
研修を終えてケニアに戻った私は、ケニア南西部のビクトリア湖に近いニャミラ郡で、若者を雇用するための地域固有樹種の苗床事業を立ち上げました。木は環境保全のためにとても重要です。炭素を固定し、土壌浸食から地面を守り、二酸化炭素を吸収して酸素を放出することで環境を浄化し、ケニアでは強風の季節に防風林として機能します。また、果実は子どもたちの栄養源にもなります。木を売ることで農作物以外の収入源にもなっています。
苗木事業は順調に進み、売上も順調に伸びていたのですが、苗木を売った代金の分配をめぐってメンバー間で争いが起こり、苗木事業グループは崩壊してしまいました。
このプロジェクトの失敗で私は非常に落ち込みましたが、この地域のためにもう一度チャレンジしたいと思い、現場責任者ではなく、経営者レベルで携わるという新しい形で、再び苗木事業に取り組みました。
苗木ビジネスの次に担当したのは、ベルギー政府が支援する農業セクター開発プログラムで、バナナ、地元野菜、牛乳のバリューチェーンを開発することでした。
ニャミラ県はバナナの産地ですが、品質の良いバナナを生産できる苗木が不足していました。そこで私は、バリューチェーンの改善に向け、関係者をまとめる仕事に直接携わりました。バナナには種がないため、茎の根っこの脇から出てくる新芽を使って次の代のバナナを育てますが、長年同じ母木を使っていたため病気が発生し、その母木を農家で共有していたこともあり、良質なバナナが生産できませんでした。バイオテクノロジーにより組織培養で苗木を生産することで、より品質の高いバナナを生産できるようになり、その結果、市場価格も上昇しました。バリューチェーンの発展が軌道に乗った頃、私は再び国の農業生産事務所に異動になりました。
現在は、農業保険事業のモニタリングと評価を担当しています。農業国であるケニアでは、気候変動による高温・少雨・洪水などが農民の生活に直接影響を及ぼします。そこで、これらのリスクに対する農家の耐性を高め、ステークホルダーの農業への投資を促すことが、このプロジェクトの目的です。
このプロジェクトは、気候変動の影響によって深刻化する高温や少雨、洪水などの農業ショックに対して最も脆弱な、わずか0.5エーカー(約45m×45m)の土地を所有する零細農家を対象としています。農業ショックを受けた農家が何らかの補償を受けられるように、面積収量指数保険が利用されます。政府は、生産時期に応じて農家に保険料の補助金を支給し、トウモロコシ、ソルガム、アイリッシュポテト、グリーングラムを生産する160万人以上の零細農家のレジリエンスを強化するのに役立っています。5年間で2億1800万シリング(約2億3100万円)の補償が行われました。
農業保険の分野は、国にとって最も関心の高い分野となっています。
私は、日本での研修で有機肥料「ボカシ」の作り方を学び、農村部で商品化したいのですが、ボカシの原料となる米ぬかがケニアではあまり手に入りません。現地でどのような材料を使えば商品として販売できるでしょうか? 日本の先生にお聞きしたいと思っています。
私の日本での研修の仲間は14人います。彼らは世界中にいますが、今でも連絡を取り合っています。農業で困難に直面したとき、お互いにアドバイスし合うことで、大きな刺激となり、いつも発見があります。この仲間たちは、私の宝物です。
日本人の先生やホームステイの両親から聞いた言葉で印象に残っているのは “Keep on the good work. “です。この言葉を胸に、これからも前向きな姿勢で頑張っていきたいと思います。
2009年の研修修了式でのエイリーンさんのスピーチはコチラ