④の続き
インドネシア駐在員の大垣です。
第5回まで続いた出張レポートも今回が最終回。デュマック県のマングローブ林の視察を終え、CFPの活動校があるティンブルスロコ村とベドノ村を訪れました。
ティンブルスロコ村は海沿いの漁村ですが、訪問時には満潮の最中で、村中が海のように洪水状態となっていました。どの住民に訊いても、ここまでの高潮被害は今年初めてだそうです。海面にゴミが漂い、膝に届く程の重い海水を足に感じながら、村の端から端まで歩いてみました。道中、高台に避難する住民や家屋への浸水を防ぐ作業をしている住民たちの姿を目にしました。
CFP活動が展開されている小学校に入ってみると、校庭の半分が海水で池のような状態になっていました。高潮で校舎が浸水すれば下校措置が取られるため、基礎教育の時間が奪われているのも確かです。毎日、そして年々水位が高くなる高潮による洪水で、もしかすると生まれ育った村を離れなければいけない日が来てしまうのかもしれません。デュマック県で海中に沈み、消失した村を目にしたばかりなので、そのリアリティにゾッとしました。
また、翌日訪れたベドノ村でもやはり同様の被害が起きていました。小学校では、校舎が浸水すれば排水作業に時間が取られ、校庭も水浸しなので、朝の集会も行えない上、子どもたちの遊び場も失われています。机やイスも湿気と錆で痛むので、頻繁に修理しなければなりません。棚に保存してあったいくつかの教科書や資材も水没してしまい、とても使用できる状態ではありませんでした。泥で塗れた床はサンダルでは滑りやすく、満潮時に学校を歩く際には水ダニに嚙まれてしまうケースもあります。最低限の学習環境も上記の問題により、刻々と失われている現状がありました。
そのような状況下でも、マングローブを植え続け、CFPを通じて環境について学ぶことは、直面する現状に対する姿勢を学ぶためのとても価値のある取り組みだと感じます。例として、学校の裏側に植えられたマングローブ林は、子ども達の学習環境がこれ以上悪化しないよう防壁として機能しています。行政が主体となったインフラ整備も必須ではありますが、オイスカが取り組んでいる環境教育活動は次世代に故郷を残すための最大の投資だと感じています。
「私たちが本当のグラスルーツです」
ラフマットさんがおっしゃった言葉です。
現場視察を通じて、オイスカ活動はさまざまな人の存在なしでは無し得ないと改めて感じました。植林活動では、マングローブを植えるだけでなく、活動中は年間を通して、気候変動、ゴミ問題、病害虫、違法伐採等の様々な脅威に対応するだけでなく、村人たち、行政関係者と利害関係を乗り越えて信頼関係を築き、マングローブ再生に向けて関係者全員が一つになって取り組む必要があります。日々、変化する現場での調整力、人を巻き込む力、専門性、そして活動の基盤となるオイスカの精神。物凄い人間力を兼ね備えた人たちが始め、諦めずに継続してきたからこそ、成し得ることのできた事業です。この20年の間、一人ひとりの手によって一本ずつ苗木が植えられ、インドネシア国内だけでも、3600ha以上のマングローブ林が蘇り、地域の減災・防災だけではなく、地域社会にさまざまなマングローブ生態系の恵みをもたらすなど、人々の生活の支えになっています。
“人”
最前線で大活躍する調整員や植林グループの方々をはじめ、オイスカに関わる国内外の全ての皆さま、一人一人の想いと活動によって進められている事業であり、その方々の存在無くして、活動は行えません。
最後になりますが、インドネシアの現状を理解し、人々に寄り添いながら長きに亘ってご支援くださっている支援企業の皆さま、オイスカ会員の皆さまに心から感謝申し上げます。