備忘録「広葉樹の育苗から9年続けてみて」

2020年7月13日( カテゴリー: 広葉樹, 担当者の振り返り )

吉田です。今日は、広葉樹9年を振り返りながら、所感を箇条書きしてみます。
【総括】

  • 海岸防災林「再生地」への樹種選択として、荒野と化した吹き曝しの土地では、広葉樹では枯損率が高く、生長も極めて遅く、そもそも不適。
  • それでも広葉樹を選択するなら、クロマツの10倍以上のコスト・労力を要する。養分のある土を完全に客土し、防風対策の付属品をつけ、クロマツより伸長が遅いため年2回の下刈が長く続き、もちろん施肥を毎年続けるなど、コスト度外視の覚悟がいる。
  • 植栽位置は、波打ち際から少なくとも400m以上離れている必要がある。海岸防災林の造林の考え方ではなく、造園の考え方・予算の出処で公園等で局所的に植栽する程度が望ましい。
  • 宮城沿岸部は、5月下旬~11月上旬までは海からの塩分を含む東風が主風、それ以外の期間は「蔵王おろし」と呼ばれる寒風・乾風害を伴うこともある強風が吹く。土壌環境のほか、気象が広葉樹への大きなリスクとなる。
  • 先端枯れ、根元からの萌芽更新、先端枯れ、萌芽更新を何年でも繰り返し。上方生長できない負のスパイラル。

【樹種選択・育苗】

  • あえて宮城沿岸の適正樹種を言うなら、落葉高木:ヤマザクラ、オオシマザクラ、ウワミズザクラ、ケヤキ、コナラ、クリ、エノキ。戦後の治山木として植えられた高木のハンノキも適。常緑低木:ツバキ(ただし、半日蔭が出来る先の話)。常緑高木のタブノキは砂には刺さらない。常緑低木でトベラ・マサキなどは宮城の寒さに不適。なお、当然のこととして、特別な事情がない限り採種地は宮城県産であることが望ましい。
  • クロマツと同じ育苗場で育てたが、そもそも、海沿いであること自体が気象環境的に無理があり、数的ロスが多かった。
  • 常識的には、育苗期間1年、草丈を優に超える1m程度の苗で出荷するはず。しかし、苗高が必ずしも高く苗のほうが、風当たり面積が少なく有利ではないか。
  • 某県沿岸部の有力育苗家(直播・裸苗)に諸々習ったが、門外不出の「根切りのタイミング」がある模様。

【植栽】

  • 宮城沿岸では、春植え不適(成績不良。1年後生存率17%)、秋植え(9月末~10月中旬)が適。11月の植栽では遅い。
  • 仮植した苗、4ℓ以上の培土と、液肥・給水ポリマー・水を混ぜて大きなビニール袋に1本一本入れた「泥付き苗」で出荷・植付。植穴は40×40×40cm以上となる。
  • 冬越しし、5月に無事開葉したとしても、6月~7月に葉が蒸散不能の症状を見せ、やがて植栽後まもない苗はほぼ100%「先端枯れ」を起こす。いわゆる「大苗」(育苗期間2年以上)も同様。先端枯れ、根元からの萌芽更新、先端枯れ、萌芽更新を何年でも繰り返す。上方成長できず、クロマツを仰ぎ見ながらの負のスパイラル。

【保育】

  • 上方成長が極めて遅いため、下刈は樹高が草丈に勝るまで年2回が必須。秋以降の寒風害対策として、枯草は防風柵でもあるため、全面刈りではなく、つぼ刈りとしている。
  • 当地の盛土仕様の土壌では、施肥は少なくとも草丈に勝るまで、毎年継続が必須。1本1本の樹勢から判断し、根の先端を予測して施肥穴を3ヵ所掘り、オール8を50g×3穴/本行っている。施肥穴の位置が適切でないと、効果がゼロである。
  • 高さ1.6mの防風垣を越え、風に吹き曝されたとき、どうなってゆくか注視し、引き続き管理を継続したい。なお、これまでのところ、害虫、獣害などの被害はほぼ受けていない。
  • 当地の海岸防災林の最内陸部は、最終目標林型として高木クロマツ、中木広葉樹、低木常緑広葉樹などという複層林を目指します。広葉樹植栽671本は、そのための「母樹」の位置づけ。将来に本数調整伐をした後などに人の手で「樹下植栽」(林間植栽)しても、生長不良で「もやし以下」と襟裳岬の実証実験結果から学んだ。あくまでも、鳥類やタヌキの糞に期待して、実生で育ってきたたものを大切に確保して育てたい。
  • 今後の戒めとして、クロマツも万能でないことを忘れてはならない。マツクイのリスクがある。したがって、クロマツが壊滅した場合に沿岸が完全裸地化しないためにも、海岸防災林最内陸部は複層林化を最終目標林型としてゆきたい。

【その他】

  • クロマツと広葉樹を「混植」した組織が見られたが、「海岸防災林」再生の目的をはき違えていた。その後も、下刈・追肥をせず、枯損・植栽後の上方生長皆無。ところどころにクロマツが立っている「風通しの良い防風林」と隣接地に畑を持つ農家が言った。
  • とにかく震災後は「植林至上主義」が跋扈したが、植栽後管理を非常に怠り、コストもろとも地主に押し付けている。だから、植林ボランティアはプロから嫌われ、陰口を叩かれる。植栽実面積と法面・作業道を合わせ、境界まで管理する「常識」も心得ず、指導されても黙殺する。突如11月に業者に下草刈りをさせたと思ったら、翌日大勢のスーツ族が来たのも見た。11月に下草刈り・・・2回見たことがある。
  • 「広葉樹を・・・」と言った組織や、一部の専門家・報道は、広葉樹のその後を検証せず、忘却の彼方。沈黙している。

 
【余談】
先日「タブvsクロマツ」というブログを載せました。
モニタリング調査対象の2016年10月植栽タブノキ(樹高40㎝)の根元から、実生のクロマツが伸びてきていて、タブと同じぐらい高さになっているのを林久美子広報室長が発見。去年根元で発芽したのか。気付かなかった・・・では、これをどうすべきでしょうか? 教科書的な答えは単純。マツを伐ります。なぜなら、①抵抗性クロマツという保証はない(残存木のマツ傘から風で飛んできたにしては遠い?。500m南に離れている。植栽した抵抗性マツの種子の可能性もある)。②植栽したのはタブ。③しかも調査対象。④その上、数少ない生存個体。
海岸防災林のクロマツvs広葉樹論争は、とうの昔に、現場の結果で決着がついたと思います。ですがよりによって、オイスカしか見てない変なところで再燃・・・ともかく、先に伸びるのはクロマツでしょう。放置すれば、数年後にはタブノキを根元から引き抜いて持ち上げるかもしれません。植栽後4年も経って、やっと葉の枚数が微増傾向に上向いたこのタブノキの根張りは、大目に見てもまだせいぜい50㎝程度でしょうし。しかも、ここのタブノキは蒸散機能が悪化し、毎年夏にたくさん葉を落とします。このクロマツは今年の夏、光をたくさん得るでしょう。
それにしても、わが社の女子の「現場で気付く眼・感性」は凄い! やっぱり現場百篇ですね。

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