2012年5月に育苗場で広葉樹播種をして4年半、植栽開始して2年半が経ちました。
本事業に関し、三井物産環境基金からも助成をいただき、最後の補植を行いました。
林野庁と森林総合研究所を通じて播種を依頼された種子も2年半育苗して植付ました。
将来の記録として、クロマツと比較しながら、海岸林における広葉樹植栽についての
我々の考え方を改めて記述いたします。

左:林帯幅200mのクロマツ海岸林、広葉樹10種類(1.8m間隔で2列×全長1km)、中央:防風垣、幅30mの生物多様性配慮ゾーン、右:農地(2016年12月2日)

左:林帯幅200mのクロマツ海岸林、広葉樹10種類
(1.8m間隔で2列×全長1km)
中央:防風垣、 幅30mの生物多様性配慮ゾーン
右:農地(2016年12月2日)


●まずは「クロマツvs広葉樹」の渦中に
2011年のプロジェクト立ち上げ以降3年は、様々な立場の方から、「クロマツと広葉樹を
ランダムに交ぜて植えるべきないのか」というご意見や、「クロマツは根が浅いから
津波ですべて流された」という事実と違う主張をもとに、マツを排除すべきというご意見、
「近所でドングリを育てているから植えてほしい」という全国からのご依頼などが殺到しました。
私どもは当初から、クロマツの性質などを説明しながら、「この海岸にはクロマツが最強である」
ということを多くの方にご理解いただいたと信じています。
●コストを意識せずに論じられることに辟易
ただ、いわゆる専門家やマスコミを筆頭に、一般市民も含めた共通点として、
「コストと手間への意識はない」と感じました。逆に、いわゆる現場のプロ、事業規模的な実践を
ベースとする人は「いきものの多様性」「樹種論争」の話より、コストや手間にも着目した
議論をします。「いくらかかると思ってるの?」と。否が応でも渦中から逃れられないので、
内々で簡単に算出しましたが、事業規模になればなるほど、まったくもって比較になりません。
●海風と乾風と寒風
当地では2014年の初植栽以降、約37ha、19万本のクロマツを植えてきました。
塩分を多く含む海風最前線の環境下である、波打ち際から400m以内という位置と、
また、山側から秋から春にかけて半年間、乾風と寒風で知られる「蔵王おろし」を
遮るモノのない裸地・荒野です。襟裳岬では約60種類の樹種を試し、そこでの先行樹種としては
クロマツが最適と言う結論を出したように、全国各地も同様に実践を経て選んできたと考えています。
●海岸防災林としてはクロマツ林が最強な理由
クロマツの特徴は、耐塩性、耐貧栄養土壌性、耐酸性、耐乾燥性、深根性です。
風を遮断するのではなく適度に風を通すことが防風効果を上げると言われています。
その効果発揮に相応しいクロマツの葉の形は防風林として、潮風から農業を守るのに
相応しいと考えられています。
オイスカと名取市海岸林再生の会の育苗場では、アミタケ、キンタケ、ショウロなどの
菌根菌が、育苗しているマツの根に付着します。その苗が菌根菌とともに植栽され、
新しく造成された盛土でマツの生長とともに菌も広がるので、キノコと共生し、
その助けを得ながら過酷な環境を生きてゆくというマツの性質が大いに活かされます。
育苗場で自然に菌根菌が根についていることは、ボランティアの方や視察の方にいつも
お見せしております。
●林帯幅の持つ意味
なお、1950年の旧宮城県林業試験場の研究で、「幅200m以上の林帯幅を持つクロマツ海岸林は、
海からの潮風に含まれる空中塩分の97%を濾し取る作用をする」という報告もありました。
また、防風林として風下に対し樹高×20倍の距離に対して防風効果があると言われています。
●津波のみならず、スーパー台風にも対応した備えである
今年は台風が宮城に上陸しましたが、それは観測史上初のことでした。
地球温暖化、気候変動、異常気象の急増は誰の目にも明らかです。津波にも耐えられるという
ことだけでなく、いつ来てもおかしくないスーパー台風や、それと満潮が重なって起きる
高潮への備えと思っています。海岸林の第一の存在意義は防災。森林生態系を活用した
防災インフラです。
●松くい虫のからのリスク回避策
松くい虫対策としても、宮城県は地元産のマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの開発に成功し、
その種子を使って育苗し植えることができます。本当の効果判定は将来を待たねば
なりませんが、松くい虫リスクは低減したと考えています。
●なぜクロマツは津波で倒されたのか
当地では、もとの地盤を約1m掘っただけで地下水があります。
クロマツは4m前後にもなる深根性ですが、常時水に触れては根腐れしますので、
根は地下水を避け、下に伸びるのではなく、地面に沿って横に伸びてしまいました。
林野庁は、津波の圧力にあっさり屈した反省から、地下水位から3.2mの高さとなる盛土を
した上で、クロマツを中心とした海岸林を復旧するという方向性を出しました。
実際に仙台空港の横には、数mの高さがある自然砂丘上のクロマツだけ、津波にも負けず
今も生き残っている場所があり、私たちは2011年5月の陸上踏査でそれを確認しました。
●名取における広葉樹の植栽結果
この3年で植えたクロマツの本数は約19万本。
それに対し、広葉樹は約600本のみ。ごくわずかにとどめています。
種の発芽率と生育率、植栽後の活着率と生育率で比べても大きな開きがあります。
2014年4月(国有林内)、2015年4月(市有林内)に新植を行い、生育率約20%。
大半が芽を出し、開葉するも6月には60%が枯れてしまいます。
植栽箇所は海から最も離れた場所にのみ。混植せず。
クロマツは3年連続で98%以上の生育率をたたき出しています。
●補植は2度も…
今回は国有林、市有林ともに2回目の補植を実施。
補植はいずれも10月中旬に行いました。結果、冬の寒風に耐え、春先の乾風に耐えるも、
6月から蒸散機能不全となり、枯れるものが出始めます。しかし、生育率は60%以上を維持。
広葉樹は秋植が良いという結論です。
2015年10月植栽のヤマザクラ。当地の広葉樹植栽は、2年連続で秋植の成績が良い。クロマツはやはり春(2016年12月2日)

2015年10月植栽のヤマザクラ。当地の広葉樹植栽は、2年連続で秋植の成績が良い。クロマツはやはり春
(撮影:2016年12月2日)


●植えている樹種は
本数が多い順から、ケヤキ、ヤマザクラ、コナラ、ウワミズザクラ、オオシマザクラ、
エノキ*、これに各10本程度クリ、スダジイ*、アカガシ*、タブノキ*を。
名取市や仙台市の山から採種、自前で育苗、もしくは購入して植栽しました。
*印は皇居内で採取、森林総合研究所の管理を経て種子が寄贈されました。
しかし、冷蔵保存後、播種前に一晩水につけたところ、浮いてしまった種子もあり、
播種したものの発芽しなかったものが多く、発芽しても多くが枯死する結果でした。
海から1.4kmの防風ネットに囲われた育苗場で、海岸林の環境に似た状態で育苗した結果、
植栽可能な苗になるまで3年半も要しました。
●成績の芳しくないことが自明の広葉樹を、なぜ植えてきたのか
海から最も離れた位置にある国有林の内陸側に、隣接する形で「生物多様性配慮ゾーン」が
設定されそうだという情報が、最終判断の決め手となりました。配慮ゾーンの幅は約30m。
盛土をせず、元の地面をそのまま維持し、植栽もせず自然推移に委ねると決められました。
波打ち際から400m程度の距離なら、樹種を選べば生きるかもしれないと考えました。
せっかく生物多様性に配慮しても、津波から5年半たった今、草が少々茂り、樹木もまばら、
一向に伸びず。そもそも海岸林は防風、防砂、防潮、飛塩・飛砂防止のためのインフラとして
保安林に指定されたもの。林帯幅は少しでも広いほうが良い。
多様性配慮ゾーン設定の趣旨を念頭に置きつつ、海岸沿いの広葉樹として適切かつ、
自生していた樹種を選び、母樹として子孫が配慮ゾーンに及ぶよう、人の力で努力してみよう
という考え方を採ることにしました。
●海から一番距離のある部分だけは複層林を目指して
30年程度先の遠い将来、クロマツを本数調整伐した後、最も内陸部だけは、
高木としてクロマツ、その下の亜高木として広葉樹が実生で自然に育つ可能性を高め、
複層の針葉樹と広葉樹の混交林となるように誘導。ちなみに2013年の襟裳岬視察で、
クロマツ本数調整伐の後、広葉樹の「林間植栽」試験をした結果、非常に成績が悪かった
ということを学びました。
●クロマツと広葉樹を同時期に混植することの是非
また、植栽の際、クロマツと広葉樹を同時期に混植した場合は、日光を非常に欲しがる
「陽樹」のクロマツは、いずれ広葉樹から日光を奪われ、被圧され、枯死します。
混植は一度も考えたことがありません。
●ここで生えては困る広葉樹「ニセアカシア」との闘い
侵略的外来種ワースト100に数えられているニセアカシアの侵入は避けられません。
名取では北端の閖上、南端の北釜地区で目立ちます。強力な生命力と、「アレロパシー」
といい、排他の性質を持つことが特徴です。見過ごせば、いまは善くても将来クロマツは
駆逐されてゆくことになります。根が浅く、幹は柔らかく、30年程度たつと風などで倒れて、
空間を作り、そこから子孫が一気に増殖するのをよく見ます。防風林としては不適当と
考えて、見つけ次第、刈り取るようにしています。佐々木統括は「闘いと思え」とよく言います。
2016年10月15日の最後の補植後、調査プロットを設定して、保育とともにモニタリングを開始しました(2016年11月19日)

2016年10月15日の最後の補植後、調査プロットを設定して、保育とともにモニタリングを開始しました
(2016年11月19日)

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