Post2020雑感① 実力派の実践団体を参考に考える

明けましておめでとうございます。
新年にあたり、「海岸林と地域の将来ビジョン形成調査」に関して、
いま感じていることを、頭の整理を兼ね、数日かけて連載します。
2011年以来、地方出張を利用して各地の海岸林を巡り、地元でヒアリングしました。
まず、連載の冒頭として、宮城南部と同様に、大規模面積を抱えた上で、プロも唸る
ダイナミックなボリュームを実践している、東と西の2つの現場に絞って紹介します。
ただ、判断を誤らぬためには、さらによく学んだうえで、宮城南部とは置かれている
状況が全く違うぐらいの前提に立たねばならないと肝に銘じております。
 1.北海道「えりも岬海岸林」(国有林約200haなど)
「えりもの緑を守る会」
森林組合、漁協なども含む「オールえりも」の官民各組織がメンバー。
事務局はえりも町産業振興課林務係。市町村が事務局を担うパターンは、各地で
見られるが、一長一短あると思う。造林の歴史的経緯などから、住民意識が
極めて高い稀有な現場。それゆえか、実践を重視し、きわめてスリム化し、
シンプルな組織形態を取れると感じた。樹齢も25年~40年生などが多く、実務は
ひだか南森林組合が中核を担う。目標林型はクロマツ先行ののち、実生の広葉樹
を自然に導入する点など、宮城南部の将来を考える上で非常に参考になった。
(やはり、試験的に実施した「広葉樹林間植栽」の成績は芳しくないとのこと)
襟裳岬になぜ海岸林がなくてはならないか(この地ではクロマツでなければなら
ないということでなく)、非常に長いスパンで考え、信念や技術を後世に継承し、
この地における海岸林の存在の目的を、極めて現実的に追及している。
植栽は小面積ながら今も継続。育樹祭は「枝おろし」(枯れあがった枝を鋸で
落とす)。ここには松くい虫はまだ及んでいないから拾う必要もない。
「5,000人の住民5人に1人が植樹祭と育樹祭それぞれに参加する。正直言って、
参加者数が多すぎて・・・。仕事を理解できているから、開始と言う前に
すでに仕事が始めている人がたくさんいる」(関係者)

襟裳岬にて。 日高南部森林管理署、えりも町役場、ひだか南森林組合にご案内いただき、宮城中央森林組合とともに視察(2013年8月)

襟裳岬にて。
日高南部森林管理署、えりも町役場、ひだか南森林組合に
ご案内いただき、宮城中央森林組合とともに視察(2013年8月)


 2.佐賀県唐津市「虹ノ松原」(国有林約200haなど)
「虹ノ松原保護対策協議会」
事務局は唐津市観光文化スポーツ部観光課(虹ノ松原室)。日本三大松原であり
玄界灘国定公園内(自然公園法)であり、その上、国の「特別名勝」に指定され
ている(文化財保護法)ことが大きな特徴。その再生・保全は、地権者はほぼ国
にも関わらず、県・市・民間を含む「オール唐津」で担おうという考えで構成
されているのが第1の特徴である。
最も注目している点は、「虹ノ松原再生・保全基本計画」と、それを受けて
協議会が作成した「実行計画」が存在している点。まず、佐賀森林管理署
と「レクリエーションの森協定書」(国有林の制度)を締結し、全体計画・年間
計画を立案。国・県・市・民間が各役割を分業。松くい虫対策、密度管理など
高度な専門性を要する点でも、森林総合研究所九州支所なども深く関与している。
多くの主体が分業するにあたっての制度設計、実践の理論的根拠が、シンプル
かつ、緻密に整理整頓されている点も際立っている。
「松くい虫による伐倒駆除は、年間1本程度/haに抑えられている」(関係者)
「団体が乱立状態になるのは良くないから、すべて協議会のテーブルで決める」
(田中明 佐賀大学名誉教授)
NPO法人「唐津環境防災推進機構」(KANNE)
協議会内「レクリエーション部会」事務局を入札で受託し、市民参加による再生
保全活動の運営を託されている。年間6,400人の市民・企業・団体が、①アダプト
方式、②自由参加方式の2種類で、松葉掻き、落ち枝拾い、芽かき、除草、清掃に
柔軟に参加できるよう、市民・企業団体の参加の窓口として大車輪の役割を担う。
これぞNPOともいうべき。この覚悟は、とても簡単に真似できるものではない。
「年間2,555tの木質バイオマスの処理・利活用など全体の大きな課題もある」
(①リターフォール(落葉・落枝など)200haで年間1,110t、②広葉樹伐採1,125t、③下草刈り155t、
④松の過密林伐採110t、⑤松の伐倒駆除55t)
虹ノ松原にて、佐賀森林管理署、NPO法人唐津環境防災機構に ご案内いただき オイスカ関係者7名で視察。

虹ノ松原にて、佐賀森林管理署、NPO法人唐津環境防災機構に
ご案内いただき オイスカ関係者7名で視察。


cf. このような先進的な取り組みは、多くの実務関係者がじかに触れるべきかと。
五月雨式に行くのではなく、いつか、行政とともに視察団を編成できたら・・・
つづく

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