緑化技術参事の清藤です。
7月27日に久しぶりに植栽現場に行きました。今回は名取海岸林再生の会の総会に出席し
翌日レンタカーを借りて一日好きなように見させてもらいました。
今年の植樹祭5月20日に参加できなかったこともあり、気になっておりました。今年度は16.32ha植栽、
合計66.6ha・約35万本の苗が植えられたことになります。この植栽地で興味をそそられることがいくつもあります。
たとえば、精英樹と抵抗性苗の生長の違い、コンテナと裸苗比較、県外産クロマツ苗の行方、挿し木育苗苗の動向、秋植えの行方、植栽地の立地、生長に伴う密度調整は?松くい虫は大丈夫なのか?内陸面に植えた広葉樹は?等々。
さて今回特に気になっていたことは、雨と生育、特に被害との関係です。
今年は雨が少ないです。名取の4月~7月の積算降水量のデータを図で示しました。
2016年の植栽地では雨が多かったため、土壌が過湿状態となり、根から酸欠、養分吸収不足を招いて
葉の黄変症状が現れ、それが2017年も引きずって枯損に至る個体が増えると懸念しておりました。
2018年の降水量は2016年に比べたら半分近い状況、それが救いになるのだろうか、いや逆に今年の出荷・
植栽苗82,000本は乾燥害で枯損に至らないだろうか等あらぬ消極的仮説をたてて現場を見て回りました。
そのことに絞って書きます。
こんな高温乾燥続きなのに、2014年以来の全植栽木は元気が良い!これが第一印象です。
今年の植栽苗はというと、ほぼ全域を見て回りましたが、枯損木はたったの7本でした。ですから99.999%の
活着率なのです。佐々木統括の報告では99.3%ということでしたので、全体で600本枯れているということに
なるのですが、おそらく統括の調査時点で出荷苗は、寒害を受けた苗もあり、それらの今年の頂芽の開きが
遅かったことからの枯損の判断だったと思います。
私の見落としがあったとしても50本も枯れてないでしょう。そのくらい活着の成績が良いのです。
たとえ寒害で針葉が痛めつけられ赤黄となっていても肝心な今年伸びる頂芽と根がしっかり生きていれば
生きるのです。根から水分を押し上げ酸素を芽に押し上げるのですが、マツの針葉は実にコンパクトに
厳しい乾燥条件でも耐えるようになっています。もう少し詳しく説明する為クロマツの針葉の横断面を示します。
外側を厚い表層、次いで蝋引きのクチクラ層が包んでいます。かつ水の損失を減らすべく気孔をワックスで覆っているのです。このため水不足でも水を失なわない構造なのです。
枯損していた苗を見てみると、頂芽が2-3㎝と短いもの、また苗の深植えと思われるものでした。
頂芽の短いものは、植栽前から恐らく芽が寒害を受け細胞組織は破壊されていたものと思われます。
また深植えについては以前にも言いましたが、深植えは土壌の酸素不足を招き、根が伸びず
植栽時のまま枯れていくのです。
一方気になる場所2016年度植栽地
名取第1~6、9・11工区で過湿地帯、植栽初年度より葉が黄変し、下枝が落葉をする箇所です。
今回見て回ったところ、針葉は、写真で示したように見事に黄色から緑変していました。今年の乾燥が
過湿障害から解放した結果です。植物は、葉っぱで二酸化炭素を吸って酸素と水を作り出し、根で酸素と水を
吸い上げます。根腐れを起こすと酸素が吸えなくなり、窒息状態になるので葉は黄色、茶色に変化して落ち、
根は黒色に変化して根腐れとなります。
クロマツはじめ本来植物は、土と土の隙間や土の粒の中にたまった水を吸い上げ、水がはけた後に
できる隙間から、酸素を吸収します。水はけの悪い保水性の高い粘土質等の土ですと酸素量の減った
古い水がいつまでも残り、水はけが悪いため空気の隙間ができません。その結果、酸素不足になるのです。
また、土が乾燥するほど空気量が増えますから、今年の雨不足が逆に功を奏して植栽木に酸素を送り、
元気な植栽木になったと考えることができます。