特定非営利活動法人LiTAさん主催の
イベント「経済危機の スリランカ で ~持続可能な未来を目指し、子どもたちと取り組む環境教育~」のため、オイスカ ランカ事務局長のアラハコーンさんが来日して講演しました。
(2023年3月19日開催 @合人社ウェンディひと・まちプラザ研修室(広島市))
当日は、会場とオンラインで参加することができ、40人ほどがスリランカでのオイスカのこれまでの取り組みや、経済危機下における環境教育についての学びを深めました。
広島での講演の後、東京のオイスカ事務所にも立ち寄ってもらい、職員向けに報告をしてくれた内容を報告します。とても流暢な日本語で、スリランカの活動を知ってもらいたい。理解していただいてみなさんにサポートしてもらいたいという熱意が伝わってくる話でしたので、ここで報告します。
スリランカの森林
スリランカの森林面積は、1900年には約70%だったのに対して、現在は34%に減少しています。
その原因は、焼き畑、山火事、違法伐採、農地拡大とされています。森を切り拓いて農地にしても、土の管理ができていないため、雨が降ると土砂が流れ、ダムに砂がたまっています。土砂崩れや洪水などの自然災害も増えています。
これまで、お米は年に2回、収穫できていました。今は、昔の栽培の暦のとおりに稲の苗を植えても、降って欲しいときに雨が降らず、降ってほしくない収穫期に雨が降るなど、極端な気候の変化で農業にも支障が出ています。
野生の象への影響
森林面積の減少の影響は「野生の象」の世界にも起きています。
人間から見ると象が問題、象から見ると人間が問題です。
家族を養うためにローンを組んで、サトウキビ畑を経営する農家がいますが、サトウキビ畑に野生の象が3頭くらい入って歩き回ると、サトウキビは踏みつぶされ、売り物にならなくなります。
森林が減り、住む場所や食べるものが減ってしまったため、市場のゴミをあさり、ビニールもそのまま食べてしまい、便が出なくなり、死んでしまうケースもあります。
畑への侵入を防ぐために周囲に張ってある鉄条網に鼻がひっかかり、そのまま動くことができず、食べ物も食べられず、やせ細って死んでいく象もいます。
2016年の少し古いデータですが、野生の象との衝突などで亡くなった人は76人、鉄砲で撃たれたりして死んだ象は256頭という数字があります。森林減少によって、象と人間の衝突も深刻になっているのです。
ゴミの問題も深刻です。
人間のライフスタイルの変化にともない、機械化や化学肥料の使用など、農業のスタイルも変化しています。農薬や化学肥料による健康被害や環境汚染も深刻です。
なぜ、このような問題が発生しているのでしょう。
それは、人々の環境問題への知識の不足によると思います。経済的な問題もありますが、新聞を読まない、テレビも見ない人が多く、知識を得る手段がありません。偏った情報も溢れています。
生活するのに必死で、自分が環境のことを考えなくても誰かがやってくれるだろうという考えになっているように思います。
そもそも、生活の中で環境について考える余裕がないのだと思います。
学校でも、環境に関する学習の時間がとても少なく、特に実践的な学びの機会が不足しています。
私は、「知識を広げる」→「理解を深める」→「態度を変化」→「行動を続ける」というサイクルが切れずに続けていけるようにサポートが必要だと思っています。これを担うのが、オイスカの役目だと思っています。
現在の子どもたちは、未来のおとなです。「未来のリーダー」になる存在ですから、大切にしなければなりません。
学校や地域で苗木を植え、育てる活動を展開
スリランカでは、未来のリーダーたちに、学校や地域で苗木を植え、育てる「子供の森」計画の活動を展開しています。子どもたちに、自然を守ることの大切さやその方法を伝え、実際にフルーツの木やその土地に古くからある樹種などを植えます。
「子供の森」計画の参加校は累計358校になり、516,484本の苗木を植えてきました。植えて2年で子どもたちの背丈を越え、10年で青空教室ができるまでに木陰をつくるようになります。数年でフルーツは実がなりはじめます。ジャックフルーツは、熟す前に収穫して茹でると、ごはん替わりにもなります。
「オイスカといっしょに植林などの活動をしました。子どもたちは、学んだことを家でもやるようになりました。子どもたちはとても喜んで参加しています。やる気をもって彼らが活動している姿を見ると、子どもたちの心が成長しているのを感じます。言われなくても子どもたちは、日課として自分の植えた木の様子を見に行ったり、水をやったり、草をとったりしてお世話をしています。ときどき、木に話しかけている子どもを見かけることもあります。今、オイスカが子どもたちと一緒にやっている活動は素晴らしいものですし、今後、全国の学校が参加することを期待しています。」
前ボゴダ小学校校長/現クルナワ学校校長 ナリニ先生からのビデオレターより
経済危機の影響はいろいろなところに出ています
こうした活動を地道に続けてきましたが、今私たちは国として大きな問題にぶつかっています。それは、経済の問題です。現在スリランカは、深刻な外貨不足などで経済危機に陥り、急激な通貨安や物価の高騰が続いています。
・ひどい時は一日10時間も停電する日が続きました。
・ガソリンやディーゼルの燃料供給が減り、値段が高騰しています。今も1週間に手に入れられるガソリンの量は決まっていて、QRコードで管理されています。
・国が持っている外貨が少ないため、輸入品が不足して値段が高騰しています。
・お金を持っていても物がないため、薬を手に入れることもできません。
・医薬品や機材不足で手術が無期限に延期されるケースもあります。
子どもたちへの経済危機の影響も深刻です
一日3食を食べられない子どもたちが増え、栄養不足になっている可能性があります。お弁当におかずを入れられず、経済危機以前はみんなでワイワイ楽しそうに食べていたのが、隠れて食べている子どももいます。
50ページのノートの値段は、2022年10月に230ルピーだったものが、2023年1月に650ルピーに、わずか3カ月で3倍に跳ね上がっています。
オイスカらしい活動は何だろうか?
こんな状況の中で、オイスカらしい活動は何だろうか?とオイスカの関係者で話し合いを重ねました。そこで考え出したのが、野菜づくりの知識や技術を教えるホームガーデニングプログラムの強化です。
まずは、食料に困る人が増える中で、野菜づくりができる技術や知識を広げることは大きなサポートになると考えました。それも、身近な材料を使って、たい肥の作り方を教えたり、価格が高くなっている化学肥料や農薬を使わずに長く続けられる農業のやり方を伝えたりすることは、オイスカの理念にあった活動だと思いました。
またスリランカにも、食事の時にはお皿に調理した食べ物が盛られているのが当たり前で、使われている野菜を育てる苦労を知らない子どもたちがたくさんいます。そうした子どもたちに、食べものやそれを作ってくれる人への感謝の気持ちを育んでもらいたいという思いもありました。
楽しく野菜を育てる活動
ホームガーデニングの活動を子どもたちに楽しんでもらいたくて、野菜ごとに、オクラグループやナスグループなどのグループをつくります。栄養についての話も織り交ぜながら、グループで野菜の苗を植え、管理をします。生えてくる雑草は、まとめて、鶏糞などを混ぜて肥料にします。
苗を育てる時には、ビニールのポットを使いますが、壊れた鍋や使わなくなった洗面器、お米の袋など、ポットとして使えそうなものを子どもたちに家から持ってきてもらい育苗用ポットとして使っています。
トマトやインゲン、ニンジンなどの採れた野菜を使って、週に3回、お母さんたちスープを作ってもらっています。子どもたちに喜んでもらってお母さんたちも喜んでいるし、自分たちが育てた野菜をおいしく食べられて子どもたちも嬉しい。子どもたちの栄養不足が心配されている中で、野菜スープは栄養改善にもつながっています。
今は、学校での活動が主ですが、少しずつ地域での活動も広がってきています。この取り組みを通じて、家で野菜づくりをする人が増え、村全体に広がっていくことを願っています。自分の家で食べるだけではなくて、近くの家に分けたり、市場に出したりして、人のことも考えられるようになるといいと思っています。
経済危機の中で、人々の心が内向きになって、自分だけという意識が強いけれど、少しでも外向きになるといいと思います。
今後の展望
今、喉から手が出るほどに欲しいのは「青年」です。
活動を継続するためには、私たちの力だけではできません。
ユースリーダーがほしいですし、育てていかなければいけません。理解者を増やして、活動を続けていくには、どのくらい努力すればいいのかわからないけれど、やってみるしかないというところです。
私たちも精一杯頑張りますし、皆さんからも引き続きサポートをぜひお願いします。