土壌の物理調査とクロマツの思い出話②
2017年8月10日( カテゴリー: 清藤先生の視点 )
前回の続きです。
研究テーマは「クロマツの核型について」でした。
核型とは、生物は細胞から成り立っていますが、その細胞中の核内にある一セットの染色体の形態をいいます。
生命の本体はDNA(遺伝子)といわれていますが、生物体の組織的単位は細胞で、細胞は大まかに核と細胞質
から成り立っています。
各々の細胞の一つ一つに一定数の紐状の染色体をもっているわけです。
例えば人間の染色体は46本、1~22番がそれぞれ対で計44本、それに性を決定するX、Y、
男ではXY、女ではXXの染色体2本を加えた合計46本ですね。紐状の分子の染色体は小さいものでも
長さが2㎝くらいで、一個の細胞の中にある46本をつなぐと2mの長さにもなるといわれています。
(今回ボランティアの皆さんに人間の染色体はいくつでしょうか?の質問を投げかけましたが、皆さん???)。
「樹木にも染色体があるの?」と言われたことがあります。
もちろん生物体ですから当然あるわけです。
では、針葉樹樹木の染色体数は、どうなっているかというと、コウヤマキ属は20本、スギ科、ヒノキ科では22本、
私の研究したマツ科は24本(写真参照)、同じくイヌガヤ属、イチイ属、イチョウ属も24本です。
ナンヨウスギ科は26本とすでに明らかになっております。
ではなぜ染色体数がわかっているクロマツの染色体を、
研究対象としてとりあげたかというと、マツ属には沢山の
種があり、その種の違いを染色体の形態的違い(核型)から
明らかにしようというのがねらいでした。
染色体の細部の違いがわかれば、交雑の成功率も向上するであろうというものでした。
したがって、染色体の各長さ、くびれの位置、サテライト(付随体)の有無を調べたのです。
染色体を調べる方法は、種子を発芽させ、伸びた芽の先端をとり、それをプレパラートにのせて酢酸オルセイン
という染色液をたらしてガラス棒で押しつぶし、顕微鏡で覗いて細胞分裂した染色体をさがして、その染色体を
さらに詳しく見ていくという根気のいる仕事でした。夜遅くまで顕微鏡を覗いていた研究室の仕事がなつかしいです。
染色体の形態は、同じ樹種でも変動が見られ、新しい知見も見られたので、先生と共同で大学の研究報告、それに英文誌の染色体学会誌にも投稿しました。それがはじめて世に研究者として名前が出た記念すべき報告でした。
今ではさらに進んでDNAレベルでの解析がおこなわれています。今後植栽地のクロマツの生育差が
著しく見られたら、細胞学的解析、DNAレベルでの解析ができたら面白いだろうと夢見ております。