養蚕普及・拡大による伝統文化の復興、発展及び地域住民の生活向上支援事業(N連)
フィリピン養蚕業の更なる発展へ
プロジェクト概要 期間:2024年3月~1年間(予定)
フィリピンでは織物が盛んに行われていますが、経糸に使用する生糸の大半を海外からの輸入に頼っているため、フィリピン政府は全国規模による養蚕普及を展開し、自国産による良質の生糸生産を目指しています。また、フィリピン国内で長期にわたり生糸の供給不足が続いており、蚕糸業を担っていく繊維産業就業者の数は減少しています。加えて、世界的なインフレによるガソリンコストの高騰は、蚕、繭の移送コストを直撃し、農家の桑生産、製糸業からの撤退に拍車がかかっている状況です。
そこで、当事業では、養蚕農家育成のための研修や共同セミナーの開催、蚕飼育のための施設・桑園整備、さらに各州代表者による訪日研修を通じたフィリピン養蚕開発のリーダー育成を通じて養蚕業の普及・拡大を目指します。
プロジェクト対象地域
当事業対象地域は、以下の地域です。
:ベンゲット州トゥバ、カパンガ町
:ヌエバビスカヤ州バヨンボン町マソック、ラトーレ
:東ミサミス州マティナオ町、ナアワン町、オポル町
:西ネグロス州バゴ市(オイスカ・バゴ研修センター)
これまでのオイスカ・フィリピン養蚕プロジェクトの成果
オイスカは、フィリピン・ネグロス島(オイスカ・バゴ研修センター)において1970年代より農業研修を中心とした農村開発のための人材育成を行ってきており、多くの研修生が養蚕普及員や製糸技術員として輩出され、活躍しています。また、過去の事業において訪日研修に参加した各州の代表者らが帰国後、地元の養蚕普及に対して積極的に連携を図っており、事業終了後も協働しながら担当者が各地で農家への指導を継続しています。
1990年代より西ネグロス州政府の要請を受けて養蚕普及支援事業を開始しましたが、彼らが技術員として同州養蚕業の中心的な役割を担っており、現在では農家約100戸が約10トンの繭を生産し、ネグロスシルク生産組合によって約1.2トンの生糸が生産されており、それはフィリピン産生糸量の90%を占めています。
養蚕を始めた農家は、収入の増加に伴い、子供の通学率が高まった他、女性の就業率が向上し出稼ぎをする必要がなくなりました。男性も砂糖黍畑での日雇い労働から解放され、安定した家族生活が可能になりました。また、養蚕業の女性従事者も多くなり、ジェンダー平等の促進にも貢献しています。
現地の状況
ベンゲット州
トゥバ町は前 N 連事業地でもありますが、新型コロナウイルスの影響を受けて、壮蚕所の整備が一部出来たものの、多くの農家が養蚕の基本的ノウハウを学ぶ機会を持てませんでした。それでも数戸の農家で自助努力を重ねトライアルにより一定の成果を出しています。そのため周囲の農家にも良い影響が広がっていますが、資金的余裕はなく、現状のままでは養蚕普及は困難な状況にあります。
ヌエバビスカヤ州バヨンボン町マソック、ラトーレ
かつて養蚕業を学んだ農家が散在しており、バナナの皮やビニールポットで苗木を育て、ある程度の高さに育ったら桑を剪定し、新たな苗木を育成する方法を身に付けている農家もいます。
その中心的農家は徐々に桑のエリアを広げ、壮蚕所を拡大しようという熱意に溢れており、支援を必要としています。
東ミサミス州マンティナオ町、ナアワン町、オポル町
養蚕技術習得による繭質向上と壮蚕所の設置による生産拡大が期待されています。また、農家の養蚕へのモチベーションを高めるための新たな試みとして、東ミサミス州農業局とミンダナオ大学は農家が取り組みやすい野菜栽培との連携を計画しています。
西ネグロス州バゴ市(オイスカ・バゴ研修センター)
日本政府、地方自治体、蚕糸関係機関、そしてオイスカ会員組織等のご支援を受けて、小規模ながら世界でも類を見ない蚕種製造、養蚕、製糸、織物まで一貫した工程が築かれています。ネグロスシルク生産組合の管理の下、西ネグロス州を中心に新規農家やモデル農家育成の研修にも力を入れており、選抜された研修生が訪日研修に参加するなど、さらに技術を磨いて指導に当たっている優秀な普及指導員(研修生OB・OG)を有しています。
今後の方針
オイスカ・バゴ研修センター(西ネグロス州)を拠点に、3つの 州においても養蚕に必要とする施設整備および養蚕の基本的知識や技術、また養蚕に対する理解者をつくることにより、養蚕の普及拡大につなげます。
いずれの地域の気候条件も、適度な雨量、温度、そして風通しがあり、養蚕業に非常に大切な、より良い「桑育成」「繭育成」に適しています。当事業では、これまで過去の事業で培われたネットワークとインフラを有効に活用して、フィリピンでの養蚕普及・拡大を目指します。